進化精神医学の名著「Good Reasons for Bad Feelings」からの学び────感情をより解像度高くみるために
✅進化精神医学の名著「Good Reasons for Bad Feelings」の要点
・精神障害は驚くほど一般的で、計り知れない苦しみをもたらす。文明・生活環境の進歩にもかかわらず、うつ病、不安障害、その他の精神疾患の罹患率は依然として高い。
・進化生物学は精神疾患に新たな視点を提供する。なぜ自然淘汰が精神障害に対する脆弱性を排除しないのかを問うことで、我々はより深い理解を得ることができ、治療アプローチを改善することができる。
・精神疾患は単に特定の原因を持つ病気ではない。精神疾患は多くの場合、正常な感情反応の極端なものであり、進化によって特定の状況で役立つように形作られたものである。
・不安や気分の落ち込みのようなネガティブな感情には、適応的な機能がある。不安は危険を回避するのに役立ち、気分の落ち込みはエネルギーの節約や勝ち目のない状況からの戦略的撤退を促す。
・煙探知機の原理は、私たちがネガティブ感情を過剰に経験する理由を説明している。ちょっとした煙や熱で鳴る煙探知機のように、ヒトの感情システムは、潜在的な脅威を回避するために敏感なものになっている。
・ヒトの感情は遺伝子に利益をもたらすように設計されている。幸福を最大化するようにはできていない。このことは、ヒトが嫉妬や悲しみのような不快な感情を経験する理由を説明する。嫉妬や悲しみは痛みを伴うが、最終的には個体の遺伝的血統の生存を促進(助ける)する。
・社会的選択は、ヒトの愛と善の能力を形成してきた。協力的で寛大なパートナーを選ぶことは、個人と集団の両方に利益をもたらし、向社会的な形質や道徳的感情の進化につながる。
・抑うつや無気力は適応的でありうる。実現が困難な欲望や衝動を意識から遠ざけることで、達成可能な目標に集中できる。
・現代環境は、ヒトの心(身体)に課題を突きつけている。豊富な食料、ソーシャル・メディア、非現実的なメディアの描写は、過剰消費、社会的比較、不満を招き、精神衛生上の問題を引き起こす。
・進化精神医学は、精神治療の全体的なアプローチを奨励している。遺伝子、脳のメカニズム、人生経験、現在の状況が複雑に絡み合っていることを認識することで、精神障害に対してより効果的で個別化したケアをできる。
この本は、精神障害に対する伝統的な見方に挑戦し、その進化的な起源をより深く理解することを促している。感情の適応的機能と人間の心の複雑さを認識することで、私たちは心の健康を促進するためのより良い戦略を開発できる。
✅煙探知機の原理とは、ヒトがネガティブな感情を頻繁に経験する理由を進化論的に説明したものである。
✔️煙探知機の原理とはこういうものだ。
煙探知機は「敏感」に設計されている。本物の火災を検知できないよりは、火災が発生していないのに鳴る(誤報)方が良いのだ。誤報のコスト(迷惑)は、本物の火事を見逃すコスト(怪我や死亡の可能性)よりはるかに低い。
同様に、ヒトの感情システムは、潜在的な脅威に敏感に反応する設計だ。現実の脅威を見逃すよりも、危険や有害かもしれない状況で不安や恐怖、悲しみを経験する方が良いのだ。誤報のコスト(一時的な感情的不快感)は、本当の脅威(怪我や死の可能性)を見逃すコストよりもはるかに低い。
進化の結果として、煙探知機の原理を搭載した個体の方が、生存・繁殖に相対的に有利だったのだ。
✔️煙探知機の原理が働いている例をいくつか挙げてみよう。
・プレゼンの前に不安を感じる: そのプレゼンが命にかかわるようなものである可能性は低いにもかかわらず、不安な気持ちが入念な準備や良いパフォーマンスをする動機となり、社会的拒絶やキャリアの後退という「危険」を回避できる可能性がある。
・失恋で落ち込む: たとえ関係が終わったとしても、その悲しみは、何がいけなかったのかを反省し、その経験から学ぼうとする動機となり、将来同じような損失(失敗)を避けるのに役立つ。
・パートナーが異性と話しているときに嫉妬を感じる:パートナーは他の誰にも興味がないかもしれないにもかかわらず、嫉妬はあなたを動かす。彼女を取られたくないという思いが生じ、より一層、大事にする。
注意しなければならないのは、「煙探知機の原理」は、ネガティブな感情がすべて有用で正当化されるという意味ではないということだ。時には、感情システムが過敏になりすぎて、過剰な不安や抑うつ、その他の精神衛生上の問題を引き起こすこともある。しかし、このような感情の進化的基盤を理解することで、感情をうまく管理し、必要に応じて対処することができる。
✅煙探知機の原理を頭に入れておくことで、感情との付き合い方がグッと上手くなる。
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