「ニューアース」エックハルト・トール著
お寺の寺務所を整理していて、出てきた本。
「ニューアース」
エックハルト・トール著
吉田利子訳
ぱっと開いたら、最後に引用しているページが出てきた。
きっと、呼ばれていたのだろう。
いわゆるカウンセリングではないけれど、カウンセリングの場ではこういうことがしょっちゅう起こるのだろう。
ただし、きっとそれはカウンセラーが「透明」である時だろうと思う。
この記述で起こっていうようなことは、たしか、カール・ロジャーズが自選集で書いていたことと似ている。
「傾聴」という言葉にだまされて、様々な技法が存在するが、その技法の奥にある哲学というか背景を知らないと、傾聴にはならない。
ただ、傾聴の技法は、コミュニケーションを円滑にするにはとても良い方法だと思う。
エックハルト・トールは、この「ニューアース」の冒頭で、以下のように書いている。
「一人が目覚めるたびに集団的な意識のうねりは大きくなり、その他の人々の目覚めが容易になる」
「目覚め」という言葉に異様に反応する人がいる。反応する前に、なぜ反応するのか、その反応のエネルギーである無意識の部分にはなにがあるのかよく見てほしい。
ユング派分析家になるためには、教育分析というのを長期間にわたってうけなければいけない。詳細はよく知らないのでいい加減なことはかけないが、おそらく分析をする側の様々な無意識の部分が、クライントに影響を与えるため、純粋な分析ができないということなのだろう。
本来の意味で、僧侶もそうでなければいけないと思う。自分自身がどのような問題を抱えていて、どのような煩悩があるのかを徹底して観察しなければならないのだと思う。思想が易行だからといって、そういう行をしないというのは、範疇錯誤もはなはだしい。
究極のカウンセリングは、この例にあるように、そこに存在するだけで、来談者が変容することだろう。
話を聞くとか、心理療法をやるとかそういうのは、もしかしたら、コミュニケーションを行うためのツールでしかないのではないだろうか。
タロットのカードがそうであるように。
そしてまた、心理学、宗教、スピリチュアルな教えは、自分の外側にあることをマニュピレーションすることではない。「自分自身」のためのものだ。
経典の分析だとか、論文を書くとかいうのは、そのための作業にすぎない。
この部分は、様々な面でとても重要な内容を含んでいる。
一つは、自分自身のエネルギーが、何かを引き寄せているということだ。まるで磁石のように。
もう一つは、上にも書いたが、目覚めた状態(この言葉がいやなら、透明である状態)は、他の人を変容させるということだ。
僕の知っている、とある京都の社長は、この本がぼろぼろになるまで読んでいた。そして、本には、いっぱい付箋が貼ってあり、線が引いてあった。
きっと、何度も読むたびに視点が変わっていたのだろう。
実は、エックハルト・トールのことはあまりよく知らなかった、本はいくつか読んでいるが、彼自身についてはあまり知らない。
こらに少し書いてあるし、Wikiにもあるので読んでみるといい。
https://usatoday30.usatoday.com/news/religion/2010-04-15-tolle15_CV_N.htm
目覚めた人がいる場所は数キロ先にもその影響が及ぶということを言ってる人もいる。
P190
当然ながら、重くてしょっちゅう活性化するペインボディを抱えている人は、年中争いに巻き込まれる。もちろん自分が積極的に争いを起こすこともあるが、自分では何もしていない場合もある。それでも放射しているネガティブなエネルギーが敵意を引き寄せて、争いを生み出す。相手がこういう活動的なペインボディをもった人だと、反応しないでいるためにはこちらがよほどしっかりと「いまに在る」必要がある。いっぽう、こちらがしっかりと「いまに在る」と、それによって相手がペインボディから自分を引き離し、ふいに奇跡的な目覚めを経験することもある。その目覚めは短時間で終わるかもしれないが、とにかく目覚めのプロセスの始まりにはなる。
私がその種の目覚めを体験したのは、もう何年も前のことだ。夜中の十一時に玄関のベルが鳴った。インターフォンから聞こえたのは隣のエセルの不安に怯えた声だった。「どうしてもお話ししなくてはならないことがあるんです。とても大事なことなの。すみませんけど、開けてください」。 エセルは教養ある知的な中年女性だった。同時に強いエゴと重いペインボディの持ち主でもあった。 彼女は思春期にナチス・ドイツから逃れてきたのだが、家族の多くを強制収容所で失っていた。
入ってきたエセルは興奮したようすでソファに腰を下ろし、もってきたファ ルから手紙や書類を取り出して震える手でソファや床に広げた。 とたんに私は、自分の身体のなかで調光器の目盛りが大きく動いてパワーが最大になったという不思議な感覚を覚えた。とにかくオープンな姿勢でできるだけ観察力を働かせつつ、しっかりと身体の全細胞をあげて――「いまに在る」しかなかった。 エセルの口から奔流のように言葉があふれる。「今日また、あいつらからひどい手紙が来たんですよ。私に復讐しようとしているんだわ。 お願い、あなたも力になってください。私たち、一緒に闘わなくちゃ。向こうの性悪な弁護士は何が何でもやり通す気です。私、住むところがなくなってしまう。あいつらは権利を剥奪すると脅してきたのよ」。
どうやらエセルは、住宅の管理者が彼女の要求した修理に応じなかったという理由で、管理料の支払いを拒否したらしい。そこで管理者側は裁判に訴えると脅してきたのだ。
エセルは十分ほどまくしたてた。私は彼女を見つめながら聞いていた。 とつぜん彼女は口を閉じ、いま夢から醒めたという表情で広げた書類を見回した。 態度は落ち着いて穏やかになり、エネルギー場はすっかり変化した。それから彼女は私を見て言った。「こんなに大騒ぎするほどのことじゃありませんわね、そうでしょう?」。「そうですね」。私は答えた。それから何分か彼女は黙って座っていたが、やがて書類を拾い集めて立ち去った。翌朝、通りで出会った彼女はいぶかしげな表情で私を見た。 「あなた、何をなさったんです? 私はここ何年も眠れないで困っていたのに、昨夜はぐっすり眠れたんですよ。まるで赤ちゃんみたいに熟睡しました」。