「な?」
飲食店などで不快な思いをした時、あなたはどう対応するだろうか。
僕は店員さんに文句を言うことはまずない。その店に二度と行かなければいいだけの話である。この対応は、親父を反面教師として育まれたものだ。
僕がまだ小学生だったある日、家族みんなでファミリーレストランに出かけた。そこまでは良かったのだが、悪いことに、親父が注文したハンバーグだけがいつまでたっても来ない。当然のようにキレた親父は、店員さんを呼びつけて怒鳴った。
「おい、どんなけ待たせる気や。見てみい、もうみんな食い終わっとるやないか。せっかく家族で食べに来とんのに、意味あらへんやろが!」
もう店員さんは平謝り。確かに親父の言うことも一理あるが、家族の楽しい時間を険悪にしているのは、むしろ親父の方である。おかげで家族そろって重苦しい時間を過ごすこととなった。
それから親父の料理が運ばれてくると、店員さんはお詫びのしるしとして、ちょっと高そうなキャンディを持ってきた。親父はいかにも仕方なさそうに受け取り、店員さんが去るやいなや、得意げな顔で僕らに向かって言った。
「な?」
何が「な?」だ。
親父にすれば「言ったもん勝ち」ということなのだろうが、家族の気分は、ほとんど敗者のそれに等しかった。
こんなこともあった。
家族で遊びに出かけた帰りに、車で高速道路に乗った。ところがすでに高速は大渋滞。こりゃアカン、とすぐに出口へ向かった。するとその途中に料金所があって、通るのに百円かかるという。もちろん親父はキレて、係員さんに怒鳴った。
「お前、高速こんなに混んでるんやったら、ちゃんと表示出しとかんかい! 知らんと高速乗って、降りるのに金取るって何考えとんねん!」
おびえきった係員さんは、「じゃあ、けっこうです……」と言って通してくれた。
車内には険悪な空気が漂う。親父は運転席から、後ろに座る僕らに向かってこう言った。
「な?」
何が「な?」だ。
このようなトラウマを経験してきた僕は、「もう二度と同じ悲劇を繰り返してはならない」と心に刻んでいるのである。
ご迷惑をおかけしたみなさまには、この場を借りてお詫び申し上げたい。親父も反省しております……。