読書記録 『落下する夕方』江國香織
あらすじ
健吾に別れを告げられた梨果。別れの理由である華子。そんな関係だが、なぜか梨果と華子の共同生活が始まる。
感想
それぞれのキャラクターにとても魅力があると感じた。
華子は言葉を正確に、(梨果からみると)正しい質量で使う。無職で人の世話になってばかりいるが、それに恐縮するわけでもなくむしろそれを当然のこととして生きている。誰もが子どもの頃に大切にしていたことを、大人になったことを言い訳にせずずっと大切にし続けているような大人。
この本は梨果の視点で描かれているので、梨果のキャラクターについて感想を言う人はいない。私からみると、梨果は自分の利益には無頓着で、先入観なくものごとや人を見ることができる人物だと感じた。その点では華子と共通しているところがあり、だからこそ華子が好いているのだと思う。
健吾はまっすぐで、いわゆる「男子」という感じがした。梨果のいいところを、無意識で感じとって好きになって付き合っていたが、意識的に言語化できるかと言われればはてなマークがつくかな、という人物像にみえる。
このキャラクターたちが、「そうなるだろうな」としか思えない成り行きで毎日を送り、周りの人たちを巻き込み(周りの人たちが勝手に巻き込まれ)、少しずつ月日を重ねていく。江國さんのすごいところはやはり、彼らの人生の一部を切り取って風景画みたいに描けるところだと思う。