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夏の抜け殻
もうすぐ、夏休みも終り。
既に、夏休みを終た、と云ふ子供達もゐるやうですね。
わたくしが子供の時分には、夏休みと云へば8月いつぱい迄でありましたが、
今日日は昔よりも、随分と短くなつてしまつたのですね?
夏の朝に早起きをしたせいか、懐かき事を思ひ出してしまいました。
わたくしの人生で、一番楽しかつた夏休みの思ひ出です。
わたくしがまだ小学校低学年の頃、わたくしと兄は、九州のおばの家に何日か滞在いたしました。
そこには従兄弟たちもゐて、犬も猫もおり。広い庭のある家と、自然に恵まれた土地で、子供らしい夏休みを満喫した事が、今でも鮮明に思ひだされます。
わたくしは都心部育ちでありましたし、犬も猫も飼ふ事もなかつたものですから、
おばの家での数日間は、とても物珍しくて、楽しくて。
こうして思ひだすだけでも、胸の真中にじんわりとぬくもりが育つとともに、
脳裏に、真夏の朝日のやうな、黄金の光に包まれた景色ばかりが見へて来ます。
きつとそれは、朝のラジオ体操に向かう道中で見た景色でせう。
朝露に濡れた葉の緑と、その上にかかる黄金。
まだ淡い夏空と、霞のような雲。
ラジオ体操のスタンプカードを首から提げ、兄と従兄弟たちと歩いた道。
其処からかほる、草と土の混じつた、あのにほひ。
わたくしの子供の頃の記憶と云ふものは、如何してこんなにもあたたかく、美しく、涙が出るような景色ばかりなのでせう。
思へば、あの頃にポンと忘れて来たものが、幾億個もあるやうな気がしてなりません。
大人になるとは、かくも辛ひものです。
蝉が脱皮し大人になる時、子供の殻を地に置ひてこなければならぬやうに、
わたくしたち人間にも、「捨てなければ大人になれないから、自然と捨てて来てしまつたもの」が、たくさんあつたのだらう、と日々感じます。
わたくしの抜け殻は、今何処に。
未来の旦那様は、まだ夢の中。
少しばかり早起きしたけふですから、
散歩にでも出かけませうか。
もしかしたら、わたくしの夏の抜け殻が、そのあたりに落ちているやもしれない。
あのまばゆい景色に、もう一度出会へるかもしれないから。
……せつかくですから、帰りに、コンビニでアイスでも買ひ求めて良いでせうか?
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