
【写真展】ドアノー/音楽/パリ l 写真から聴こえる音と想い。
ドアノーの写真からは「音」が聴こえる。
人々の笑い声が写っている。
まさにタイトルどおり、ドアノーと音楽とパリが楽しめる、そんな写真展がただいま東京渋谷の「Bunkamura ザ・ミュージアム」で開催されています。(〜2021.3.31)
ドアノーの写真に心奪われつつも、わたしは写真家として生きる姿勢にも惹かれました。
作品をとおして感じる想いやポリシーに注目しながら感想を書いていきたいと思います。
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1.写真家 ドアノーってどんな人?
ロベール・ドアノー(1912-1994)
パリの街角にあふれる人々から、オペラ歌手マリア・カラスやピカソなどの名だたる著名人までを写真におさめた、パリの写真家です。
有名な写真は「パリ市庁舎前のキス」。
正直なところ、わたしはドアノーを知らなかったのですが、この写真で、あ〜〜見たことある!となりました。
詳しく知りたい方は上のリンクをご覧いただくとして、次からはざーっと簡単に、ドアノーの生涯をご紹介したいと思います。
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2.写真との出会いと人生。
1912年パリ生まれ。日本でいう明治45年、大正元年のお生まれです。
幼いころにお父さまが出征したり、お母さまがなくなったりと孤独な少年時代を過ごされたご様子。
13歳から美術学校で石版画を学び、やがて石版工の資格を取得し、18歳で広告制作会社に就職。
このころ広告業界では急速に写真が広まったことをきっかけに写真を学びはじめます。
最初はドアノーにとって写真は生活の糧だったのですね。
4年後にはプロとしてルノー社に就職し、産業カメラマンとして活躍したものの、欠勤と遅刻を繰り返して5年でクビに。
でもここから「写真家ドアノー」の人生がはじまるんです!
芸術家、文化人らのポートレートを撮影して、賞などを取るようになったのちに「ヴォーグ誌」の専属カメラマンを3年くらい務めます。
1994年に81歳でなくなるまで、生涯にわたり写真家として活躍し続けたそうです。
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3.写真から伝わってくる想い。
ドアノーの写真を見て、印象的だったのは、主役となる被写体だけでなく、主役を取り囲む群衆たちも一緒に写していること。
だから写真から聴こえるんです、感じるんです。
音。空気。匂いを。
今回の写真展は、「音」がテーマの1つになっているので、楽器を演奏したり、歌手が歌ったりしている姿も多く写真に収められているのですが、聴こえてくるのは、楽器の音や歌声だけではないんですよね。
群衆の笑い声、おしゃべり、ガヤガヤとした雑踏の音、そんな気取らないパリの日常音も一緒に聴こえてくるから不思議です。
ドアノーは「写真を撮る」のではなく、
「その場の楽しい時間を写真に収めていた」のではないか、と感じました。
また著名人たちの写真も、なんというか、いい意味でスター感がない。
オペラ歌手「マリア・カラス」やファッションデザイナーの「イヴ・サンローラン」などなど。名だたるアーティストたちですよ!
なぜだろう?と思って見ていたら、図録にあるエピソードが書いてありました。
ドアノーは被写体を和ませるテクニックとして
「アマチュアカメラマンを装っていた」そうです。
モデルが緊張していることを察すると、
カメラの故障を装って
何分もかけて直すフリをする。
すると、モデルはふっと気をぬき、
素の表情をみせる、
その瞬間をすかさず写真に収める。
めちゃ、カッコよくないですか?この方法。
これ、マネしようとしてもたぶんなかなかできないと思います。
わたしはファッション誌の編集者をしていたので、撮影に立ち会ってきましたが、モデルの緊張を解くのは本当に難しい。
緊張をといて「あげよう」と思えば、それがモデルに伝わり「プレッシャー」になる。モデルはますます緊張してしまいます。
でもドアノーはあんなに自然で楽しそうな表情を写真に収めている。
ドアノー自身の人間力もそうとう高かったのではないかと思います。
著名人に対しても、さきほどのパリの街角とのときと同様、「いい写真を撮ろう」ではなく、被写体である著名人に
「いまこのときを楽しんでほしい」と思っていたのではないか、と感じました。
きっと、素敵な方だったのでしょうね。
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4.写真家としての生き方、ポリシー。
ドアノーの作品を見ながら解説を読んでいくと、素朴であたたかい人だったのだろう、と感じます。
フォトグラファー、カメラマン、というより、写真家。
そして、自分が好むテーマでなくても発注された仕事は柔軟に引き受ける。
でも、写真に対してのこだわりは静かにしっかり持っている。
そんなところにもとても惹かれました。
写真に収めたい瞬間がくるまでひたすら「待つ」。
「イメージの釣り人」とも呼ばれるほど、よい瞬間が訪れるまで、ひたすら待ち続けていたのだそうです。
また、どんなに多忙な日々でも、自分のライフワークである「パリの街の散策」と、「友人のチェリスト、バケとの作品づくり」にかける時間はしっかり持っていたとか。
そういうことろも憧れます。
ドアノーはチェリストである友人バケと「クラッシック音楽家のイメージを変える本」を作ろうとしているのですが、これがホントに楽しそうなんです。
見ていて思わず笑みがこぼれます。
私はこの2人がつくった作品の1つ「雨の中のチェロ」が好きです。
やはり楽しんでつくっているものは、伝わってきますよね。
しかし二人の作品はなかなか認められずに本になるまでにかなり大変だったとか。それでも二人で出版社めぐりをやめなかったそうです。
怒られちゃうかもしれませんが、なんか二人、とても楽しそうww
最終的に2人の本はなんと30年後!の1981年に「チェロと暗室のためのバラード」として出版されて、やっとめでたし、めでたし。
自分のしごとに取り組む姿勢も考えさせられたエピソードでした。
写真家として名声を得、年齢を重ねてからも若者との出会いを好み、いつも「新しい感性で「いま」をきりとっていく姿勢を最期まで貫いていたのも素敵です。
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5.ドアノーの写真の余韻。
楽しい時間をきりとったかのようなドアノーの写真たち。
そこには音楽があり、笑いがあり、ユーモアがあり。
気どらないけど、スタイリッシュで魅力的なパリの姿がありました。
と同時に。
ドアノーの生き方、写真とのむきあい方にもぐっと心惹きつけられる
そんな写真展でした。
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<追記>会場で流れている音楽がspotifyで公開されているそうです。
わたしはイヴ・モンタンを流し、図録を眺めながら、おいしいコーヒーをいただくのが今のお気に入りの時間です。