日記4月17日(土) #日記 皮膚は考える。
傳田光洋著、”驚きの皮膚”(講談社、2015年)を読んでいる。
「考える」ということの定義を、”外部から情報がもたらされ、それを基に情報処理を行い、全身に、生きるために必要な指示を出す”とすれば、表皮も考えているといえそうだ、ということだ(P.107).
精神的ストレスを受けると、脳が腎臓の上にある副腎に対し、コルチゾール(血糖値を上げたり、炎症反応を抑えたりして、危機的な状況にある身体のエネルギー消費を抑える働きをするホルモン)の血液への放出を指示する。
これでエネルギー消費を抑え、ストレス対応をしようとするわけだが、ストレス状況が続くと、コルチゾールが血中に出っぱなしとなり、それが大脳の海馬(記憶や学習に関与)にダメージを与え、それがうつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)を引き起こす。
これは大脳による機能だが、たとえばアトピーの患者は不安症やうつ病が通常より高い比率で起こる。アトピーは皮膚がストレスを受けた状態であり、そのことで皮膚(表皮ケラチノサイト)が大脳と同様に「乾燥」というストレスでコルチゾールを合成、放出するという。
つまり、表皮トラブルのあるアトピー患者が、コルチゾール過多でうつ状態などになりやすくなる、ということだ。また母乳を促すオキシトシン(他人との信頼関係や社会性の維持に役立つ)も表皮でも合成されているという。
マッサージがうつ病に効果があることも、オキシトニンが関係しているかもしれない。欧州では鼻孔に注入するオキシトニンスプレーというものがあり、それを行うと他人への信頼感が増して、例えば投資をより行いやすくなったという。オキシトニン投与により、自閉症やアスペルガー症候群の症状も改善したということだ(P.104-106の記載より)。
仮説を考え、さまざまな実験によりその仮説を検証する、というのがいわゆる理系的研究なのだ、ということが、この本を読んで伝わってきた。私自身は学生時代にこうした実験を行ったことはほぼ皆無だ。文系では多分心理学で実験ということがあるのだろうが、被験者になった(友達に学食で聞かれた(笑))くらいの経験しかない。
仮説を立て、実験し、証明する、というステップはなかなか興味深いことかもしれない。この本により”皮膚は感じ、考えている”とある意味では言える、ということを感じたが、これは自分の皮膚に聞いてみるとなるほどそういうことがありそうだ、という感じになる。
自分としても、さまざまな世間で言われる思い込みに取りまかれ、疑うことなく、外部からの情報を鵜呑みにしてきたな、と思い至った。教科書に書いてあることは、たまたまその時の最新情報であり、どんどん変化するのだ。もしかすると理系の研究者(理系に限らないかもしれないが)の方には当たり前の感覚なのかもしれないが。
昔のSFで、脳だけ取り出して身体が弱ってもより長く生き続ける、という考え方があった。ギルハカイダーなどを思いだす。だが身体、表皮などからうける情報、それを表皮が”考える”ということも含めての生命活動であるのなら、脳みそだけではだいぶ不十分なようだ。
いろいろな思いこみ、広がらない考えは、いわゆる”蒙”という状態であるだろう。こうした本こそがいわゆる”啓蒙”、蒙を開いてくれる機能を持っているのだろう。
(やはり理系だ、わからない、という毛嫌いは、すごく損みたいですね)