8月21日 幻想文学好きの隠れた聖地、阿佐ヶ谷・うさぎやさんの閉店のこと。
もとより超個人的な勝手極まりない聖地認定だが。。
極私的に香気あふるる幻想譚がお好きであれば、訪ねておくべきだろうと思っていた、
阿佐ヶ谷の名和菓子屋さんである”うさぎや”がこの5月20日で閉店された、ということを遅ればせながら知った。
和菓子屋としての上野店は、大正2年(2013年)谷口喜作が始めたという。もともと黒門町でろうそく屋を営んでいたが、電気使用により和菓子屋に鞍替えしたという。日本橋店は喜作の3男の方が、阿佐ヶ谷店は喜作の娘である龍さんが始めた、ということだ(ちょっと混乱しているが、うさぎや上野店のホームページでは和菓子店としては喜作が創業者であると書かれる。あるいはろうそく屋を喜作の父君が創業された、ということだろうか)。
どらやきは同じうさぎやでも、製法は違う、という。阿佐ヶ谷うさぎやの2代目店主であった瀬山妙子さん(龍さんの娘)が2016年の記事で答えている。”3軒はどこが本店なのか、関係はあるのか、などとよく聞かれます。3軒は親戚同士。でも、暖簾分けではなくて、それぞれが独立した店舗です。”
そうか、そもそも”同じうさぎや”と思うのが間違っているのか。
ではなぜ和菓子店が”極私的”幻想文学好きの聖地なのだろうか。
まずは谷口喜作のプロフィールを確認する。
15歳で父を失い母と家業の菓子店「うさぎや」を継いだ。河東碧梧桐に師事、「海紅」「三昧」などに句や文章を書いた。晩年永井荷風とも親しく、滝井孝作の「積雪」「風物誌」などの装幀も手がける才人であった。
日外アソシエーツ「20世紀日本人名事典」(2004年刊)より
明治35(1902)年6月16日生まれ、昭和23(1948)年5月25日没。
老若男女に愛される老舗「うさぎや」の"どら焼き"、絶品和菓子|料理通信|生産者、料理人、食べる人を結ぶ (r-tsushin.com)
昨年2月にうさぎやさん(阿佐ヶ谷)を訪ねたときのことは、ここの日記で書いている。
mamezouya.hatenablog.com
この谷口喜作の双子の弟が、主に翻訳家として知られる平井呈一である。うさぎや阿佐ヶ谷店の包装紙や兎月最中の包み紙も平井の絵が使われているようだ。
吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫) (創元推理文庫 502-1)
吸血鬼ドラキュラ (創元推理文庫) (創元推理文庫 502-1)
作者:ブラム ストーカー
東京創元社
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うさぎや店主の谷口喜作氏は、句や文書もこなす才人。芥川龍之介はうさぎやのどらやきを好んだという。芥川と親しかった画家の小穴隆一が、阿佐ヶ谷店にかつて飾ってあったのれんを描いたという。
ここでうさぎやと芥川が繋がってくる。
芥川は、私が子供のころは、”羅生門””鼻””蜘蛛の糸”といった作品の印象から、日本文学、古典の人、という印象であったが、実は英文学の人である。年上だが片山廣子の翻訳を褒めている。
翻案、というか桃太郎の文脈で、全く違った物語とした添付の絵本などを見ても、単なる文豪、という印象は私のなかで既にない。
芥川龍之介の桃太郎
芥川龍之介の桃太郎
作者:芥川 龍之介
河出書房新社
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芥川、といえば片山廣子、というのが私の中での(極私的)整理である。
かなしき女王
かなしき女王
作者:マクラウド フィオナ
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かなしき女王: ケルト幻想作品集 (ちくま文庫 ま 16-2)
かなしき女王: ケルト幻想作品集 (ちくま文庫 ま 16-2)
作者:フィオナ マクラウド
筑摩書房
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ケルト民話集 (ちくま文庫 ま 16-1)
ケルト民話集 (ちくま文庫 ま 16-1)
作者:フィオナ マクラウド
筑摩書房
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平井呈一生涯とその作品
平井呈一生涯とその作品
松籟社
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平井呈一の生涯と作品を深く深く掘り下げた荒俣作品であるが、荒俣もまた翻訳でケルト文学にアプローチしている。当然荒俣もフィオナ・マクラウド「悲しき女王」を訳した片山廣子を意識されていることだろう。
ということだ。
うん、言ってしまえばほとんど関係がない。
うさぎやさんといえば、創業者の谷口喜作を通してゆるく芥川龍之介につながり、芥川と言えば片山廣子であり、平井呈一と言えば怪奇幻想譚である、というくらいの
うすぼんやりとした関係があるのみだ。
だが、いち幻想ファンとして、平井に繋がる和菓子を、芥川が好きであったどら焼きに関連するどら焼きを、いろいろ考えながら食すのは、愉しかった、ということなのだ。
こうして“愉しかった”と過去形で記さねばならぬのは残念だ。
”店主の高齢化と、職人不足”が原因とされている。和菓子屋としてのうさぎやは、“素人であるがゆえの”愚直な菓子づくりをモットーとされているという。
あるいはその品質へのこだわりが、きっぱりとした閉店、という判断となったのであろうと思う。。
「和菓子の基本ですから。うちではあんこ作りのほぼすべての作業を人力でやっており、職人の勘が大切です」と2代目店主の瀬山妙子さん。「職人は宝です」
いさぎよい、とも思う。
(また食べたかったです。。同じでないにしろ、今度は上野のうさぎやさんに行ってみたいと思います)