劇場版アニメでメインストーリーを進めてしまうのはありなのかという話
今回の議題は標記のとおりなのですが、アニメファンの方であればその是非は置いておくとしても、「ああ、その件ね…」と思ってはいただけるのではないでしょうか。昔から、この件については制作サイドも暗黙の了解というか不文律というか、とにかくそれはシリーズものとしてアニメを制作する際のルール違反であるという認識でいてくれたとは思うんですよね(もちろん、実例が0ではないでしょうが…)。
先に自分の考えを述べてしまうと、自分はこの件については「NO」と考えています。いや、「NO」だったと言った方が正解でしょうか…。昨今の制作サイドの事情を鑑みると、単純に「NO」とは言えなくなったというのが一番近いかもしれません。少々まとまりのない文章になってしまうかもしれませんが、これからこの件について自分の思うところを述べていきたいと思います。
議論を進めるに当たって、まずは自分が何が何でも「NO」であると考えているわけではないということを説明しておきます。こういうケースならアリというパターンは以下の4つです。
①そもそもTVシリーズとして放送した実績がない
劇場版アニメとしてのみ製作がなされているパターンですね。具体的な作品名を挙げようと思ったのですが、なかなかにレアケースのようで相当苦労しました(汗 『グリザイア:ファントムトリガー』については、人気作品の続編的位置付けではありますが、劇場版アニメとしてのみ2作品が公開されており、ストーリーも続きものになっているので、このパターンに当てはまりますね。ただ、本作品についてはTVシリーズへの逆輸入が決定しているようですが…。
②劇場版作品をもってメインストーリーが完結する
いわゆる「完結編」のパターンですね。これについては、今年にも『五等分の花嫁』や『からかい上手の高木さん』などの作品で劇場版が公開されていますね。他にも、『かぐや様は告らせたい』はこのパターンになる可能性が濃厚でしょう。
③劇場版の単発作品である
これについては、説明不要でしょう。あえて、①と分ける必要もないかもしれません。
④メインストーリーの空白期間や前後関係に重要性がない
日常系作品の劇場版などではこれに当てはまるケースがあります。具体的な作品名を挙げるなら、『のんのんびより ばけーしょん』がそうですね。
ここまで読んでいただければおおよそ察しが付いている方も多いかもしれませんが、自分が「NO」と考えている(いた)パターンは、以下のとおりです。
【最初はTVシリーズで放送を開始し、その後続きのメインストーリーを劇場版で公開し、その後再び続きのメインストーリーをTVシリーズで放送する】
補足すると、例えTVシリーズが継続している最中であっても、「メインストーリーの時間軸に対して過去の物語(いわゆる「ゼロ」系)」とか「劇場版のゲストキャラにまつわる突発的な事件を解決する物語」とか「サブキャラにスポットを当てたファンサービス的な物語」のように、「メインストーリーとは関係がない」若しくは「知っていれば物語への理解は深まるが必須ではない」パターンならOKですね。
つまり、自分は劇場版作品でメインストーリーを進めることによって、TVシリーズのみを追っている視聴者にストーリーの空白期間が生じてしまうのは避けてほしいと考えているということです。これまでのアニメ業界では、暗黙の了解でこの一線は概ね守られていたと思うんですよね。その不文律を豪快に破壊した作品は、皆さんご存知の大ヒットを記録した映画である『「鬼滅の刃」無限列車編』です。これは、他の制作会社にとっても大きな衝撃だったのではないでしょうか。『鬼滅の刃』については、「無限列車編」というメインストーリーをど真ん中直球で劇場版作品として公開し、その後続きのメインストーリーである「遊郭編」をTVシリーズで放送しています。さすがに制作サイドも上記の不文律への後ろめたさがあったのかどうかは定かではありませんが、「遊郭編」の前に「無限列車編」をTVシリーズとして再構築した上で放送していましたね。自分も当時はそれならまあアリかなと思いましたし、むしろ誠意ある対応だと感心すらしていました。
そして、遂にそのラインすら超えてしまった作品が登場してしまいました。そう、今期に2期を放送している『メイドインアビス』のことです。本作品については、TVシリーズ1期の放送後に、作中でも屈指の人気を誇ると言われる続きのメインストーリーを「深き魂の黎明」というサブタイトルで劇場版作品として公開し、その後「烈日の黄金郷」というサブタイトルでTVシリーズに帰還を果たしています。そして、その際に『鬼滅の刃』で行われたような「深き魂の黎明」のTVシリーズとしての再構築はなされませんでした。ただし、これについても一応は2期の放送前に「深き魂の黎明」をTVにて放送するというフォローはなされていました。その情報を知らなかった視聴者は当然涙目にならざるを得なかったのですが…。
この他、『響け! ユーフォニアム』についても「1年生編」がTVシリーズで放送された後に「2年生編」が劇場版作品として公開されていますが、その後の「3年生編」については、再びTVシリーズとしての制作が発表されていますね。なお、こちらについてもその情報公開を受けてか、先日「2年生編」の劇場版がTVにて放送されていました(大分フライング気味の対応だとは思いますが…)。
自分が懸念しているのは、『鬼滅の刃』や『メイドインアビス』のような人気作品によって、これらが影響力の強い前例として成立してしまったという事実です。これからは、他作品においてもこの流れに追従する例が増えてくると予想され、新しい商業方式のスタンダードとして認知されていく可能性は極めて高くなったと言わざるを得ません。収益率の高い劇場版作品を制作するための敷居が下がるのは、制作サイドにとっては非常にありがたい話でしょうから…。
正直、自分のような劇場版作品も積極的に鑑賞しているような人間なら、メインストーリーの空白期間云々の話自体はほとんど問題にはならないんですよね。ただ、自分はアニメの主戦場はTVシリーズであるべきだと考えていますから、そういう観点からは憂慮すべき事態ではあるのですが…。そして、劇場版作品までは見ないけど、TVシリーズは放送してくれる限りは追っているというようなファン層にとって、どのような影響が出るかも心配にはなるところです。
結局のところ、このような流れに自分が「NO」と言いたくなるのは、これまでのTVシリーズ、言うなれば「無料」で「じっくりと」ストーリーを楽しめるというありがたい「当たり前」に慣れ過ぎてしまっていたからなのかもしれません。今回の流れで劇場版作品としての公開のハードルが下がり、ちょっと人気が出れば続きは劇場版でという流れがもし出来上がってしまうとしたら、「アニメ」という媒体に対してこれまでとは同じスタンスで接することはできなくなる可能性もありそうです。自分も本当に気に入った作品のBDは購入するようにして、なるべく制作サイドを応援しているつもりではありますが、映画館に行ってチケット代を払うというのはその還元方法の一番分かりやすい形でもありますからね…。なんにせよ、今後の流れについては双方の立場を考慮した上で冷静に考えていきたいところです。