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いくつもの愛(ラムのロースト)|酒と肴 その二十六

春はラム肉 ようよう旨くなリゆく
買い込み少し日を置き 熟成進みける肉の風味ましたる
(枕草子 829段 「かぐはしきもの」)

いづれの御部位か マトン ホゲットあまたさぶらい給いけるなかに
いとやんごとなき肉にはあらぬが すぐれてときめきたるラムありけり
(源氏物語 124帖 「羊ヶ丘」)

羊の美味しい季節がやってきました。

平安時代から受け継がれてきた文学の系譜、現代の創作に枕草子と源氏物語が与えた影響は計り知れません。
もし清少納言先生がご存命だったら1055歳、きっと「羊肉」についても書かれたでしょう。しかし肉食系のお話は紫式部先生の得意とするところ。そうなるとお互いのファンがSNS上でバトル*を繰り広げる可能性も高いので、永遠の命や若さは求めない方が良さそうです。

*「をかし」と「あはれ」の対立、仁義なき宮中代理戦争

さて、ラ・ムーといえば菊池桃子さんの早すぎたシティ・ポップですが、ラムは生後1年未満の仔羊のお肉です。
産地であるオーストラリア、ニュージーランドで春(南半球なので9〜11月)に産まれた羊たちが、栄養豊富な牧草を食べて日本へ出荷されてくるのが丁度今頃。そのためこの時期は「スプリングラム」と呼ばれ、美味なお肉が店頭に並びます。

ご多分に洩れず我が町のサミットストアにもやってきましたので、定番であるラムチョップのローストを作りました。

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羊肉に関しては南半球の攻勢が激しいことから、国産のビールを合わせて一矢報います。めん羊の二大産地である北海道と長野から、サッポロクラシックとヤッホーブルーイングのインドの青鬼をセレクトしました。

まずはサッポロクラシックで喉の暖機運転。調子が整ったところでひと口齧りつけば、馥郁たる香りが鼻に抜け、羊の醍醐味が味わえます。
目をつぶると浮かぶのは展望台を埋め尽くす何万もの羊。「ボーイズ・ビー?」という博士*の呼びかけに、「アンビシャス!」と応える彼らに沈黙なんて似合いません。

*クラーク博士のこと。レクター博士ではありません。

続いてインドの青鬼をキメれば、心は信州新町にGoToトラベルです。レトルトカレーの頂点に戴くと、それはもうハーンの佇まい。口に運ぶ勢いは、インドに攻め込むモンゴル帝国のよう。食道19号を羊の軍勢が南侵します。いずれ名古屋港から南半球に旅立つ日も近いでしょう。

気づけば平安文学の話からずいぶん遠くへ来てしまいました。オージー、ニュージー、インドにモンゴル、信州新町と北海道。これはつまり現代の貴種流離譚、ある意味冒険と言っても過言ではありません。

つまり羊をめぐる冒険には、ビールが必要と言うことです。

メニューと材料
・ラム肉のロースト(ラムチョップ、ハーブソルト、ベビーリーフ)


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