思い出の予行演習(とんぶり)|酒と肴 その二十八
「はい、じゃ乾杯の練習で」
そう言って始まる時間前、集合前の0次会。秋田の文化らしいですが、都内にある勤め先でも日常的な風景でした。
飲み会が生活に根ざしていた頃、開始時間になっても全員揃わない、主賓が遅れるなんてよくある話。
最高のビールを飲むため喉をカラカラに、何ならコーヒーの利尿作用も使って水分を抜いていた私にとって、年長者からのその一言にどれほど救われたことでしょうか。おあずけ喰らうなら一人別会計で先飲みする、いくつになっても「待て」を覚えられない会社の犬ですが、そんな声を掛けてくれる上司にはいつでもお腹を見せる準備は出来ていました。(老人×中年)
さて、練習の先にある本番がどうだったかと言いますと、場が温まるのが早い分、後から来た人もすんなり打ち解けて良かったと思います。酔って覚えていないだけかもしれませんが、乾杯の練習には試合前のウォーミングアップのような効果があると思われます。
つまりは備えあれば憂いなし、ぶっつけ本番よりも練習をしておいた方が何かと安心ということです。中年の方には、都内に行く前の「東京ウォーカー」、恋人が出来る前の「ホットドッグプレス」と思っていただければ、ご理解頂けるかと。(お若い方は調べるのがネットか雑誌かの違いだけ、未知への不安と期待は昔から変わっていませんので、何かしらの参考になれば幸いです)
そこで、いつかする旅行に備え、趣味と実益を兼ねた練習を始めました。旅先で名物を注文すると「……思ってたのと何か違う」といった経験が多いので、予め特産品で一杯やるというものです。
今回はうどん好きとして一度は訪れたい聖地秋田から、名物「とんぶり」を予行演習します。
お酒はまんさくの花を合わせますが、初めての経験では何があるか分かりません。もしもの時に備え、安定の美味である「いぶりがっこのクリームチーズのせ」も用意しました。
結果は正直に言いますと、料理している段階でつまみ喰いが止まりませんでした。とんぶり大成功です。おつまみとして食べる以上に結構な量を作ったのですが、ご飯にのっけても美味しく頂きました。酒の肴にも、ご飯のお供にもなる素敵食材なんて、もう訪れる前から秋田美人に出会った気分です。
それにしても早いとこ、ババヘラアイス食べて美術館巡りをしたいものです。夜は小料理屋で比内地鶏に日本酒キメて、〆は稲庭うどんなんて、楽しみでしかありません。その土地のバーやスナックで旅情を味わうのもまた格別でしょう。もしかしたら人生を変える出会いがあるかもしれません。
酔いのせいか予行演習がだんだんと妄想になり始めたので、そろそろ水でも飲んで落ち着くことにします。
メニューと材料
・とんぶりの和え物(とんぶり、鰹節、万能ネギ、醤油)
・いぶりがっこクリームチーズのせ(いぶりがっこ、クリームチーズ、黒胡椒)