そっちは崖だと知りながら|酒と肴
やることが山積みの時ほど、日頃気にならないことが気になります。
一度使ったきりで、忘れたふりをしている調味料だとか、買ったまま手をつけていない酒粕のことで頭がいっぱいになって、何やかんや言い訳を作ってはせっせと台所に立つのです。
きっと「現実逃避」なんでしょうけれど、抱えた案件が多すぎて、最早何から逃れようとしているのか分かりません。確かなことは、料理をしている時間は余計なことを考えないで済むって話です。
この日も一向に片付かない仕事にモヤりながら、休憩中に見たスーパーのチラシで集中力が完全に途切れました。
だって、しらす・ちりめん2割引きなんだもの。
実山椒の醤油漬けは、冷蔵庫の奥で出番を待っています。3年越しの夢だった、ちりめん山椒を作る条件は整っています。
在宅で、フレックスで、休日勤務のトリプル役満でしたから、今日はもう仕事は切り上げて、ちりめんじゃこを買いに出掛けました。
煮詰まった部屋とは違い、スーパーの空気はいいですね。強張った身体と心がほぐれていくのが分かります。
鮮魚コーナーには旬の秋刀魚、鮭の切り身に筋子や白子も並び、北からやってきた秋を感じさせてくれます。あれほど続いた猛暑が、嘘のように涼しくなりました。冷蔵ケースの前なんて、寒くて長居ができません。
さあ、お目当てのちりめんじゃこを買い込んだら家路を急ぎましょう。手を洗ってガーグルして、さっそく調理に取り掛かります。
まずは酒とみりん、醤油を沸かします。結構な量のお酒を使うので驚きました。料理用に買っておいた一升瓶が大活躍、実山椒は醤油漬けなので、この時のお醤油は少なめです。
煮立ったところにじゃこを加えて2分ほど、あとは山椒を投入して、汁気が無くなるまで炊きました。参考にしたのは白ごはん.comのレシピ。いつもお世話になっております。
出来上がりはこんな感じ。
惜しげもなく使った山椒がピリリと利いて、満足いく仕上がりです。
こいつをですね、ひやおろしと炊きたての新米でやったら、やらなきゃいけないこと、抱えている問題、終わらない仕事、もう色々どうでもよくなってしまいました。
何事も先送りしたっていいことは無いと知っています。それでも料理をして、お酒を呑まずには心の安寧は保てないのです。駆け出した向こうは崖だと知りながらも、一度勢いがついたら走る足は止まりません。
米泥棒で酒泥棒、私の秋を加速させる危険な逸品でした。
メニューと食材
・ちりめん山椒(ちりめん、実山椒の醤油漬け、酒、醤油、みりん、砂糖)