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髪の毛を切りに【詩】

本日は曇天であるので髪の毛を切りに行くことにした。何故だかしらないけれど晴天よりも曇りの日に散髪したくなるのだ。散髪はキライだ。髪の毛を切る行為がキライなのではなく、鏡に映るぼくの顔がキライなのと、どこをどれくらい切るのかを指定すること。それに世間話と云った色々な行為が煩わしくてキライなのだ。
お昼過ぎなのでねむくてねむくて仕方がない。有線ではないAMラジオの放送を真剣にではなく、ただなんとなく聴いていると大昔に祖母の家での一場面を思い出す。何故かいつも夏休みである。夏は四季の中でいちばん好きな季節だ。八月生まれと云うこともあるのかもしれない。祖母の夫、所謂ぼくの祖父は麦酒が好きだった。それも決まってキリンビールのラガーである。勿論瓶である。缶ではダメだ。麦酒は瓶に限る。例の麒麟のイラストを見ると不思議な気持ちになる。怖いと云うより、こころの裡にある池に棲んでいる神聖なもので、決して直視してはいけないのだと。また祖父はぼくがまだ小学生の頃に隠れて良く麦酒を飲ませてくれた。夏と云えば麦酒と高校野球、素麺に風鈴、入道雲、そして日本航空123便墜落事故。そう忘れもしない1985年8月12日。テレビ画面に釘付けになったあの日。何が起こったのか良くわからかったけれど、大変なことが起こったのだと感じた。ラジオから陽気な歌謡曲が流れている。
あの日ぼくはキラキラひかる麒麟の鱗を見た。

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