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先生を辞めた

小さい頃からの夢だった学校の先生。
夢を叶える人ってそんなに多くないと思うけど、私は叶えた。
そして、辞めた。

教員の仕事はそんなに嫌いじゃなかった。たぶん。
我ながら生徒たちとはうまくやっていた。
いまだに連絡をくれる子もいる。
大好きな源氏物語の授業にはひときわ熱が入ったし、普段の授業の中でも「今うまくいってる!」と感じる瞬間があって、これは自慢だけど生徒の授業満足度アンケートは私が科目内1位だった。

でも、辞めたんだよね。
校長先生びっくりしてたなぁ。

私の「性格」には合っていたけど、私が目標としているような「生活」に合わなかった。
あと、私の人生の目標が「立派な先生になること」じゃなかった。
「立派な先生になること」が人生の目標だと断言できる人は、本当に教員に向いていると思う。
むしろ、教員の資質ってその一点かも。

いわゆる「底辺校」で教えてた。
それに関しては私に合ってた。
80の子を90にすることよりも0の子を1にする方が好きだった。言い方悪いかもしれないけど。

まずやられたのは喉だったな。
2年目の時点で声帯がやられて、耳鼻科に行ったら手術したくなければ仕事を辞めろって言われた。
次にやられたのは足腰。
立ちっぱなしがダメだった。もともと腰は弱かったからかな。その原因も教職課程の介護実習なんだけどね。
特別支援学校で大きな体の子に突進されちゃって。私の不注意のせいだけど。
あと、だんだん何してるときでも授業の計画を練るようになっていったかな。
明日は1限があれだからあのプリントを作って、あーあれ印刷しなきゃ、って考えてるのが友達と旅行に来てる時だったりするんだよね。

だから辞めた。
辞める日は本当にこれでいいのかなとか思った。
生徒も国語も大好きだったけど、私は何よりも「先生である自分」が好きだったんだよね。
ある意味アイデンティティだった。

今は都内の小さな出版社に勤めてる。
正直めちゃくちゃに楽しい。
教員とはまた違う楽しさだけど、仕事と一緒に生活も楽しくなった。
持ち帰り残業も無くなったからちゃんと自炊もするし、オフィスにいる時以外は仕事のことを考えなくなった。

一度辞めてみたら、「先生である自分」なんかどうでもよくなって、今はただの自分が好き。

今週末は江ノ島に行こうかなって考えてる。
もう生徒たちと笑い合うことも無いけど、頭の中で授業を組み立てることも無い。

そしたらさっきメールの通知が鳴って、昔担当してた生徒たちが集まってるから先生も来てって言われた。
なんだ、まだ残ってるじゃんって思った。
「先生だった自分」はまだ残ってて、あの子たちの中の私はまだチョークを握って怖い顔して大声を出してる。
今日はもう遅いから断ったけど、あの子たちにいつか「先生は編集者になったよ」って言いに行こう。

きっと驚くだろうけど、「いいじゃん!!」って言ってくれるとおもうんだよね。

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