読書「朝鮮人強制連行」~事実と向き合う~
日本近代史における重大な問題の一つに戦時中の徴用工に関する問題があります。数年前に韓国側から日本企業に対して訴訟を起こしたというニュースがありましたが、これは今もなお解決していない問題として残っております。
この問題に対する情報や意見をネットなどで見ると「徴用工なんて無かったんだ!」といったものもあり、果たして事実はどうだったんだろう?と興味を持ちました。
そんなときに書店で見つけたのが外村大氏「朝鮮人強制連行」という本です。今回はそのレビューと感じたことについて書きたいと思います。
・朝鮮半島からの労働力確保と強制連行
本書では様々な文献や当時の記録をもとに、戦時中の朝鮮半島における強制連行の実態が書かれています。日本では戦争当初、戦争による青年男性減少や生産需要の高まりから朝鮮からの労働者を募集しました。労働力を欲している企業は炭鉱や製造業といった軍事力に不可欠な産業です。また、炭鉱のようなとりわけ危険を伴う作業に従事する労働者の募集が多かったようです。
これを受けて日本政府は朝鮮半島の農村地域からの労働者の確保を始めますが、劣悪環境で働くことへの不安や残された家族への心配といった気持ちの面もあり、なかなか動員が進みません。そんな状況のなか各地域の行政担当は朝鮮人をなかば強制的に連行し、日本での労働に従事させたようです。
・日本における朝鮮人労働者の実態
日本に連れてこられた朝鮮人に対する待遇はひどいものでした。長時間労働や劣悪な作業環境、暴力なども横行していたようです。そんな状況での労働であるため、生産性は戦前よりも低下していきました。連行された朝鮮人は半島から家族も呼べず、一時帰国もできない状況でした。そして当初2年間契約だったはずなのに一方的な契約延長がおこなわれました。終わりの分からないことへの恐怖や不安は相当なものだったろうと想像します。
また、この頃の日本では徐々に増加していく朝鮮人への恐怖から「朝鮮人は米国のスパイだ!」といった悪い噂も広まり、朝鮮人に対する差別的意識が強まっていきました。
戦争が終わると朝鮮人は解放され、帰国が許可されました。戦時中に連行された朝鮮人は延べ200万人にも上ったと言われています。
・著者が伝えたかったこと
著者はこの歴史を通して現代の日本人も以下のことを考えるべきと述べています。
①労働に対する思惑の違いが悲劇を生んだということ
朝鮮人を日本で働かせることに対して日本政府側と朝鮮政府側の認識に違いがあったと述べています。日本側の思惑は”できるだけ多くの労働力確保”にありましたが、朝鮮側は”自国の工業化推進と農業の発展のために派遣する”といった思惑でした。そこが認識されていなかったため、こうした悲劇が起こってしまったと述べています。
②日本人は”異なる民族を受け入れない”という国民性があること
著者は朝鮮人に対する差別的意識をもつ理由として”日本人が異なる民族を日本の平等かつ正式なメンバーとして認めない”という意識が根底にあるからと述べています。また、”日本人がやりたくない労働を必要なときに必要なだけ他国の人々にやらせる”という発想は今もなお残っていると書かれています。
最後に著者はこのように述べています。
「民主主義を欠いた社会において十分な調査と準備を持たない組織が、無謀な目標を掲げて進めることが、もっとも弱い人びとを犠牲にしていくことを示す事例として、奴隷的な労働を担う人々を設定することでそれ以外の人びともまた人間らしい労働から遠ざけられるようになっていった歴史として記憶されるべきである。」
・感想 ~朝鮮人強制連行という事実と向き合う~
私は本書を読み、まず事実として朝鮮人に対する強制連行はあったんだということを知りました。なかなかTVなどで特集されることはありませんが、このような苦痛をともなった過去は存在し、今もなお苦しめられている方々がいるということも学びました。これからの日本と韓国との関係をより深めるためには”苦しめられた方々がいたということ”をまず認識しないといけないと思います。
・感想 ~人の代用から仕組みの改善へ~
また、日本人の根底にある「やりたくない労働を弱い立場の人々にやらせようとする発想」はこれからの働き方を考える上で理解しないといけないと感じました。この弱い立場というのは他国の人々だけでなく、パートタイム労働者やアルバイト、そのほか立場的に弱い人たちも含まれます。こうした人々に今ある仕事をやらせるのではなく、機械化やAIの活用といった生産性を高めることにシフトしていかなければいけないと強く感じました。「人の置き換えではなく、仕組みの改善」がこれからのマネージャーにとってより重要となる考え方なのかなと感じました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。