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未来への投資は酒場から

駆け出しのライターとして出会ったメンバーたちが、毎回特定のテーマに沿って好きなように書いていく「日刊かきあつめ」です。

今回のテーマは「#投資」です。

昔の人は投資せずに貯金ばかりしていたから、日本の経済は停滞した。

最近の投資トレンドを見ていると、そんな言説を目にすることがある。たしかに一側面として正しいのだろうけど、投資、投資、と言って流行りの投資信託や株式にばかりお金を回していると、それはそれで大切なものを見失いそうな気もしている。その失っているものに、昔の人は投資をしてたんじゃないかと思う。

呑み屋にいると色んな人に出会うが、その中でも20代の頃は一定の確率で「一緒に飲むとお酒を奢ってくれるオジサン」に出会った。自分の父親ほどに歳が離れていて、何の仕事をしているかは分からないけれど、会社員ではないことは分かる。気前のいいオジサン。

あまりに何度もご馳走してくれるから、たまには自分がオジサンに奢ろうとすると「俺は良いから、もっとお金を稼いだら、下の世代に奢ってやんな」「若い子に奢るのは、日本の未来への投資だからな」「頑張れよ若いの」と、一様に口をそろえる。

お陰様で今はこうして毎日のようにお酒を飲めるし、少しばかりなら後輩に奢ることも出来るようになった。とは言え、まだまだおっかなびっくりである。

それでも自分より若い人を誘って飲む時は、多少無理しても奢るように決心したのは『浅草キッド』を観てからだろう。

(あらすじ)舞台は昭和40年代の浅草。大学を中退し、“ストリップとお笑いの殿堂”と呼ばれていた浅草フランス座に飛び込み、東八郎や萩本欽一ら数々の芸人を育ててきた・深見千三郎に弟子入りしたタケシ。舞台の上だけでなく日常生活においても芸人たる心構えを求める元、タケシは芸人としての成功を夢見て“笑い”の修行に励んでいたが、テレビの普及と共に演芸場に足を運ぶ人は減る一方…。お茶の間を席巻した大人気芸人を数々育てながら、自身はテレビに出演することがほぼ無かったことから「幻の浅草芸人」と呼ばれた師匠・深見との日々、個性と才能に溢れる仲間たちとの出会い、そして芸人・ビートたけしが誕生するまでを描いた青春映画

FILMARKSより

この映画の中で印象深いのが、深見千三郎が家の窓から弟子のタケシたちを見つけるシーン。その直前に家計が火の車だと、深見の妻・マリは心配を告げているのだが、深見は彼らに声を掛けてメシに連れて行こうと腰を上げる。
しかし財布の中がすっからかんなこと気が付き迷う深見を見て、マリは家計のお金から数万円を財布に入れて深見に渡す。そして深見は、タケシたちをメシに連れて行く。

現代の感覚で考えたらヤバイ夫と思われるかもしれない。それでも後輩に奢るのは未来への投資で、その投資結果は自分に返ってくるのではなく、社会の未来に還元される。

深見がそこまで考えていたかは分からないが、それでも後輩の前では身を切ってでも堂々と振る舞うのが先輩のあるべき姿なのだと、妙に腹落ちしたことを覚えている。

もしかしたらあのオジサンも、無理をしながら家計のお金でお酒を奢ってくれていたのかもしれない。それならば、自分も多少は無理しても下の世代にお酒を奢っていこう。

この投資は投資信託や株式への投資では出来ない「何か大切なもの」を守る投資でもある気がする。


文章:真央
編集:アカ ヨシロウ
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