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幽霊か、はたまた..

何かが見えている?

ここしばらくいつもの屋内馬場で愛馬に乗っていると、出入口付近でやたらと愛馬が何かを気にする素振りを見せていた。時には激しく首を振り、時には両前脚を上げて「ここ、やだ!」と主張している感じ。横に(出入口から離れる方向に)逃げることもあったし、ひどいときは乗っていて体が震えているのを感じた。明らかに怯えている。何かが見えているのかと思って、私の顔を出入口に向けてみるのだが、驚くような物体は何もないし、新たに何かが置かれて景色が変わっていると言うこともない。いつもと同じとしか思えない。

指導者からは気にせず乗っているよう指示がでていたので、私は行く先、つまり前を見て、騎乗を続けるし、そこ以外は愛馬も普段通りで、うるさい(つまり抵抗する)こともないので、レッスンはそのまま続く。

でもいつも同じ場所だし、毎回毎回その場所に行くとそういう反応を示すわけではなく、何かが見えたときに反応しているように思えた。それが何かを特定できれば、取り除くこともできるかもしれないし、何より愛馬の不安を知り、私も安心できるし、落ち着いて走行できるのではないかと、ずっと何が見えているのかなぁと気になっていた。

馬の脳と人間の脳の違い

そんな時、すばらしい本を図書館で見つけた。英語の原題「Horse Brain, Human Brain」の方が本の内容を表しているこの本は、人間の脳と馬の脳の違いから、どうしてそういう行動になるのかを理解するのにとても役立つ。被食動物である馬は何かを見て、危険と感じたら、それが何かと分析せずに、すぐに走る、逃げる構造になっている。この作業は無意識に行われると言う。

大草原で危険信号を感知したウマは、何をするかをのんびりと決めるわけにはいかない。あれこれ考えるには、まず逃げて生き延びなければならない。その必要性に対処するために、ウマの脳は知覚を行動に直接つなげるよう進化を遂げた。

ジャネット・L・ジョーンズ著『馬のこころ』より

人間はと言えば、何かを見ると「あれは何か? 前にも見たことがあるか? どうすればいいんだ? 何が最良なんだ? そしてそれはなぜ?」などと分析し、決断し、そしてようやく行動にでる。これと同じことを馬がしていたら、草原ではライオンに襲われてしまっているはず。

人間にも反射神経というのがあって、熱いものに触ったら、瞬時に手を引っ込める。無意識にそうする。この行動は脳に信号が到達するよりも早く、脊髄を介して起こり、思考は一切ともなっていないそうだ。なるほど。

馬の急な動きの仕組みを知ると、少しだけ対処しやすくなる、というか私の心にちょっとだけ余裕ができるように感じた。

幽霊?

そして昨日のことだ。またしても出入口付近を突然気にしだした愛馬。そこにひゅう~っと風が吹いてきて、出たか、幽霊?! というのは私の脳内劇場での想像。でも暑くて脱いだ上着をたたんでベンチに置いてあったのが、ぐちゅぐちゅになってなぜか下に落ちている! えーっ?? 愛馬も立ち止まったし、指導者も私も(たぶん愛馬も)出入口に視線を矢の如く向けた。

と、目の端に何かが動いているのが見えた。なんと、キツネ!! それまで全く見えていなかったキツネの姿がはっきりと見え(何かに化けてた? ベンチになりすましていたとか??)、姿が見えてしまったことをキツネも認識し、気まずそうにこちらを見ている。しばし、3対の目と1対の目で見つめあってしまった。フリーズしてしまったのか、なかなか逃げないキツネに、外に出てお行き、と声をかけ、ようやく屋内馬場から出て行った。

最初から見えていた?

愛馬は実はずっとこのキツネがちょろちょろ出入りするのが見えていたのかもしれない。昨日初めて屋内馬場に入って来たのではないと思う。逃げる場所、隠れる場所が分かっている風だった。

ウマの視界はほぼ350度もあるというのは有名な話だと思う。

たとえば先日も、愛馬を引いて歩いているとき、私は基本前を向いているが、急に立ち止まるから何かと思ったら、左手奥の家の庭に、薪にするための木が積み上げられていた(前日、そういえばトラックから積み下ろしていた)。愛馬も私同様前を向いていたはずなのに、視界が全然違うのだなと実感した次第。

騎乗中の人間の視界。白い部分が見えている
馬の視界。こちらも白い部分が見えている。後ろの灰色の三角部分のみが死角。
いつもぼーっとしている感じだけど、やっぱり危険を察知する能力を備え、使っているんだね
(汗をかいたので冷えないようにフリースを着せたところ)

500㎏を超える愛馬に比べたら、とってもとっても小さなキツネだったけど、そこは被食者と捕食者という明確な意識というか知覚が馬にはあるんだろうなぁ。

(一番上の写真は乗馬公園からアエルに戻るときに見える日高山脈。元旦に撮影。今はこれより雪がないし、日高山脈の山も薄い感じ。暖かくて1月なのに3月のような日々が続いている。)

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