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ヒデ(Hide)さんの闘病記です。
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2020年5月の記事一覧

闘病日記(7) 「談話室」

 食事が柔らかいご飯に変わってから数日が経過した。この時期の事はほとんど覚えていない。お風呂に入れてもらったり、ごく軽いリハビリテーションを行ったりしたが、すべてストレッチヤーか車椅子で移動してのことだった。自分の意思で何かをしたかと言えば何もしていないような気がする。淡々と日々が過ぎていった。やがて主治医の先生から、救命救急病棟を転院してリハビリ病院に移ると言う話が具体的に行われるようになった。

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闘病日記(6) 「とろみ」

ドクターに言われた通り、3日ほど集中的に休息を取る日々が続いた。ひたすらねむった。その間に食事はそれまで点滴だけだったものから小さな固形のゼリーに変化した。
「赤松さん、まだまだこんな物でごめんよ。」
と看護師さんがゆっくりと口まで運んでくれるそのゼリーはとてもみずみずしくて美味しかった。幾つでも食べられそうだった。ほどなく、ゼリーから少し柔らかいご飯と味噌汁になった。後になって聞いたことだが、ゼ

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闘病日記 (5)「ワンチャン」

「やったな!もうワンチャンあるぞ!」
「どこかじゃボケ!」

久しぶりに会った兄と病室で交わした会話。低周波の治療器を全身に貼りつけられ、強い電流を流し続けられているような得体の知れない筋肉の振動と痛みに耐えていた時、主治医がやってきた。症状を話すと次のような説明があった。今回、自分の脳内で出血をしたのは「橋(きょう)」と呼ばれる部位で、生命活動に関わるあらゆる種類の神経が集中しているところら

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闘病記(4) 「錯覚」

「低周波治療器を体から外してください。」そう看護師さんに頼むとその人は
「…。」首をかしげて去っていった。全身にびりびりと振動が走って止まらない。脳出血で倒れた直後、病院に運ばれた時に低周波治療器を手足に取り付けられた記憶があったのでそのせいだと思ったか。その後、何人かの看護師さんに同じことを頼んだ。みんな怪訝そうな顔をする。しばらくすると、体格の良い男性看護師さんが「やれやれ、しょうがないなぁ。

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闘病記 (3) ミトン

「さようなら、HCU(高度治療室のこと) だね。」と、看護師さんに声をかけてもらって1階下の病室に移動してからも、意識が混濁した状態は続いた。自分がいる病室は海の近くにあると思っていた。視界に差し込む光のようなものがキラキラと輝いていたし、耳元では波が強く押し寄せるような音がしていたからだ。ある日、看護師さんに「もしかしていま船の上とかじゃないですよね? 海が見える気がするんです。」と質問したこと

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闘病日記 (2) たぶん三途の川  

 HCU(高度治療質)を出て、1つフロアを降りた一般病棟に移動して次に目が覚めるまでの3日間、ずっと夢を見ていた。なぜ3日間だったかを正確に覚えているのは、自分がどのくらいの間その夢を見ていたのかを知りたくて看護師さんに日付を聞いたからだ。
 その内容を記憶にある範囲でなるべく詳細に伝えたいのだが、うまくいくかどうか。
とりあえず書いてみようと思う。

大きなの拍手の後、病棟の女性看護師1名の

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