知ってるようで知らない。「トランスジェンダー」とは何か
マイナビウーマン編集部から「トランスジェンダーについて解説してほしい」という依頼が来たときに、「トランスジェンダー当事者ではない人間として、おそらく、私はかなりトランスジェンダーの友人、知人が多いのでは」と思った。
正直に白状すると、私は普段あまり自分も他人も、性別を意識することがない。「ただ、人間である」という意識で生活している。
しかし、さまざまなニュースで強制的に性差を認識させられることが多く、それらはトランスジェンダーを切り離せる問題ではないことがほとんどだ。
今回は、LGBTの「T」である、トランスジェンダーとは何なのか、について解説してみたいと思う。
トランスジェンダーって何?
みなさんは、「セックス」と「ジェンダー」のちがいをご存知だろうか。
以前私がマイナビウーマン編集部に寄稿した「『新宿二丁目』に行くときに気をつけたいこと #となりのLGBT 」から少し抜粋しよう。
セックス:生物学的ちがいや、性器があるかどうか、体の性別を表すもの。ジェンダー:社会的にどの性別として扱われたいか、どんな服装を好むかなど、心の性別と呼ばれる。
この、「セックス」と「ジェンダー」、2つの性別に差異がある状態にある人を、「トランスジェンダー」と呼ぶ。
逆に、生物学的な性別と、心の性別が一致している人を、「シスジェンダー」と呼ぶ。
■LGBとは同列ではない? トランスジェンダーの意味や定義
「トランスジェンダー」という用語、実はいろんな側面を内包した言葉である。
トランスヴェスタイト、Xジェンダー(Third Gender)、2スピリット、MtF、FtMなども、実はトランスジェンダーに含まれる人たちだ。そして「トランスセクシャル」という用語も含まれる。
では、ひとつずつ簡単に解説しよう。
トランスヴェスタイト
異性装。クロス・ドレッサーとも呼ばれる。
Xジェンダー(Third Gender)
性別の揺らぎや違和感を覚えながらも、自分は男性でも女性でもない、または中性であると感じる人などを指す。人によって、男性と女性の間を行き来する場合もある。MtX(Male to X)またはFtX(Female to X)。
2スピリット
ネイティブ・アメリカンの伝説からインスパイアされた言葉。男性と女性の魂がひとつの体に収まっている人が存在するという伝説から、心の性別が男性であり、同時に女性でもある人を指す。
MtF
体の性が男性で、心が女性の人。Male to Femaleの略。
FtM
体の性が女性で、心が男性の人。Female to Maleの略。
トランスセクシャル
トランスジェンダーの中でも、セックスとジェンダーの不一致を強く感じていて、特に自身の体に対する拒絶感が強いため、ホルモン治療や性別適合手術などの医療的行為を通して、自身があるべき性に移行する希望をもつ人。
さてここで再度、#となりのLGBTのおさらいをしたい。
人の「セクシャリティ」には3つの要素がある。先述した、「セックス」、「ジェンダー」、そして「性的指向」だ。
男性を好きになるか、女性を好きになるか、男性でも女性でもない人を好きになるか、そもそも人間を好きになるかどうかなどの、性的欲求の有無と対象を表すものである。
察しのいい読者のみなさんならここでピンとくるかもしれないが、これが「LGB」と「T」のちがいだ。
「LGB」は、「性的指向」を言及したものであり、「T」は「セックス」と「ジェンダー」の差異を言及したものである。
これが、「LGBとTを同列に語っても良いのか?」という議論に発展する要因のひとつだ。
これらを前提として考えると、トランスジェンダーであり、ヘテロ。トランスジェンダーであり、ゲイ。トランスジェンダーであり、レズビアン。トランスジェンダーであり、バイセクシャル、といった状態が成り立つことがわかる。
■性同一性障害とイコールなの?
「トランスジェンダー」という言葉は、広義な言葉で「心と体の性別に差がある人」を指している。
よく、性同一性障害と混同されがちだが、性同一性障害とは「障害」とついていることからもわかる通り、医学的用語だ。「GID(Gender Identity Disorder)」とも呼ばれる。
日本では、トランスジェンダーの中でもトランスセクシャルのように、性別適合手術などの医学的治療を望む人たちが社会的に認知されてきた。法的な整備もされはじめた2003年頃から『性同一性障害』という言葉が知名度を持つようになったのだ。
ただ、すべてのトランスジェンダーの人が身体的治療を望んでいるわけではないので、トランスジェンダー=性同一性障害と認識されて困惑する人もいる。
■トランスジェンダーの芸能人
MtFとして公表している芸能人では、はるな愛さんや佐藤かよさん、GENKINGさん、IVANさん、一華さん、中村中さんなどが有名だ。
FtMとして公表している有名人では、特定非営利活動法人 東京レインボープライド共同代表理事や、NPO法人ハートをつなごう学校代表を務める杉山文野さん(11月にパートナーとの間に第一子がお産まれに!! 心からお祝い申し上げます!)や、今は解散してしまった歌手ユニットのSECRET GUYS、世界的に有名な“男だけ”のバレエ団「トロカデロ・デ・モンテカルロバレエ団」の元ダンサーである名取寛人さんなどがいる。
■トランスジェンダーを題材にした作品
『ボーイズ・ドント・クライ』(1999年)
トランスジェンダー映画でクラシックといえば、ヒラリー・スワンクさんがアカデミー主演女優賞を受賞した『ボーイズ・ドント・クライ』が有名だ。話の内容があまりにも残酷なので、私は個人的にはもう一度見る勇気がない……。しかし、強烈な差別が存在していた歴史を知るためには、とてもよい映画だ。
『アバウト・レイ 16歳の決断』(2015年)
『マレフィセント』(2014年)で可憐な姫役を演じたエル・ファニングさんがトランスジェンダーの主人公を演じ、思春期真っ盛りの女子高校生が、身も心も男性として生きようとする様が描かれているヒューマンドラマだ。多くのトランスジェンダーの子どもたちは、第二次性徴期の頃に自分の体に強い違和感を抱くようになる。それを、どうやって家族と乗り越えていくのかが、よくわかるのではないだろうか。
『リリーのすべて』(2015年)
世界ではじめて性別適合手術を受けたデンマークの画家、リリー・エルベさんと、その妻ゲルダさんとの愛を描いた伝記ドラマだ。主人公のリリーを熱演したのは、『ファンタスティック・ビースト』シリーズの主人公ニュートことエディ・レッドメインさん。こちらも、世界初の治療がどのようなものだったのかなどを知る、いいきっかけになると思う。
その他の映画
ほかにも、生田斗真さんがトランスジェンダーの女性役を演じて話題になった『彼らが本気で編むときは、』(2017年)や、スペインの香りがたっぷり詰まっている『オール・アバウト・マイ・マザー』(1999年)、フランスの哀愁漂う『わたしはロランス』(2012年)、楽しいミュージカル映画の『ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』(2001年)、『ロッキー・ホラー・ショー』(1975年)、『プリシラ』(1994年)などもオススメだ。(最後の3本は私個人の好みなだけで、教育的な要素は少ないと思う。)
日本のTVドラマ
志尊淳さんがトランスジェンダー・レズビアンを演じた、NHKの『女子的生活』(2018年)や、東野圭吾さんの小説をドラマ化した、中谷美紀さん主演のWOWOWプライムドラマ『片思い』(2017年)、上野樹里さんがトランスジェンダーの男性役を演じた、フジテレビドラマの『ラスト・フレンズ』(2008年)などが挙げられる。
トランスジェンダーは自己診断できる?
今回も、「自分がトランスジェンダーかも、と思った人向けに、セルフチェックできるリスト」を依頼されたのだが、トランスジェンダー「かもしれない」という状態がもし存在するのであれば、多くの場合「自分は同性愛者かもしれない」と一度は悩んでいると思う。
本来、「恋愛対象」と「自認する性別」に関連性はないのだが、同性愛者の人も「同性を好きになるということは、自分は逆の性別で生まれてくるはずだったのでは」と悩む人も少なくない。
それは一様に、世間がヘテロセクシャルを前提として回っているからだ、と思っている。
■性同一性障害の診断ができるのは専門の医師のみ
トランスジェンダーの中でも、トランスセクシャル(性同一性障害)と診断できるのは、専門的な知識を有する医師のみだ。
■(戸籍の性別変更をするための)法律的な基準
法律的には、性同一性障害特例法で定められた規定があり、これは2004年に施行された。この法律が、心と体の性が一致せず、体の性別に強い違和感を抱える性同一性障害の人たちの戸籍の性別変更を可能にしている。
1. 20歳以上
2. 現在結婚していない
3. 未成年の子どもがいない
4. 生殖腺や生殖機能が永続的にない
5. 専門的な知識を有する医師2名以上によって、「性同一性障害」の診断を受けている
4.を満たすには事実上、性別適合手術を受ける必要があり、手術を受けたくないトランスセクシャルたちを悩ませている。
2.に関しても、問題は浮上している。京都市の50代の企画経営者が性同一性障害と診断されて女性への性別適合手術を受けた。しかし、結婚しているために戸籍を変更することができなかったため、現行の性同一性障害特例法の規定は違憲であると主張し、2019年2月6日、京都家裁に裁判を申し立てることがわかった。
■トランスジェンダーのセルフチェック
たとえば、自分がトランスセクシャルではなくとも、Xジェンダーや2スピリットかもしれない、と疑っている人は、自分に下記を問うてみてほしい。
・第二次性徴期に自分の体の変化がはじまったとき、猛烈に違和感を覚えて、自分の体が嫌になったことがある。
・自分の「セックス」に合うトイレに入っているのに、周囲の目が気になる。
・トイレで「こちらは男性用(あるいは女性用)ですよ」と声がけされたことがある。
・洋服を買うとき、つい自分と反対のセックスの服に目が行く、もしくは反対のセックスの服ばかり買ってしまう。
・今日は男! 今日は女! と、日によって自分のジェンダーが揺らぐ。
・会社や学校、公共の場で「男性(あるいは女性)なんだから○○しろ(したほうがいい)」などと言われることが苦痛だ。
・行動原理や好みに、性別が含まれていない(女の子だからプリキュア! 男の子だから仮面ライダー! ではなく、幼い頃から性別の好みに囚われたことがない)。
大まかに言えば、「自分が自認している性別に、一度でも疑問を抱いたことがあるかどうか」をキーに考えてみると、わかりやすいかもしれない。
「体の性別」と「心の性別」の不一致=トランスジェンダー
以前、友人がこんなことを言っていた。
「トランスジェンダーの意味がわからない。
あの人たちは、性別における?らしさ?の概念がない世界になったら、トランスジェンダーじゃなくなるの? 体の性別はわかるけど、『心の性別』という感覚が理解できない。
結局は、一番性別にこだわっているセクシャリティだと思う。LもGも、性愛を性別で分けることにこだわっているのと同じでさ」
私の答えはこうだ。
トランスジェンダーの人の状態は「生まれてきた体の性別と、心の性別の不一致」だから「らしさ」の概念がなくなったとしても、その状態は起こり得るのではないか。
結局、体は男か女のどちらかで生まれてくる可能性が高い。
だから、ジェンダーロール(社会から期待される性役割)としての「らしさ」が消滅したとしても、結局自分の性別に違和感を覚える人には、同じ現象が起こるのではないだろうか。(人間という生物が、クマノミのように人生の途中で自然と性転換したり、成人するときに自分で性別を選択できるような生物になったとしたら、話は別だが)。
「トランスジェンダー」という言葉を目にして、多くの人が想像するのは「トランスセクシャル」の姿ではないだろうか。
生まれついたセックス(体の性別)と、自分が認識しているジェンダー(心の性)が反対の状態で、医療でそのふたつを適合させる必要のある人たち。
しかし、「トランスジェンダー 」という言葉は広義に渡り、その言葉に含まれるセクシャリティは多様だ。
人間のセクシャリティはいつだって、グラデーション。
ラベル、名前は相手を理解するために有用ではあるが、それだけにとらわれずに相手を見ることが、本当の多様性を理解する第一歩なのかもしれない。
次回は、トランスジェンダーならではの悩みや、社会的問題について掘り下げてみたいと思う。
(豆林檎)
<参考・引用文献:>
Two Spirits, One Heart, Five Genders | INDIAN COUNTRY TODAY
'性同一性障害'と'トランスジェンダー'ってどう違うの?? | HUFFPOST
戸籍変更 | G-pit net works 性同一性障害トータルサポート FTM・MTF
結婚後の性別変更申し立てへ=特例法規定は「違憲」-京都 | 時事ドットコムニュース
トランスジェンダーの彼女が手に入れたもの 戸籍は男性、コスプレをしてみたら 平成元年生まれ 私のリアル | Yahoo! JAPAN ニュース