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もうお前が呪術廻戦でいいよ・「穢れた聖地巡礼について」考察と感想

先日、背筋氏の「穢れた聖地巡礼について」を読み終えた。

「口に関するアンケート」に続いて、筆者が読んだ背筋氏の本としてはこれが2冊目であった。新しい作品に手を出すことに保守的な筆者は、超短編の「口に関するアンケート」で様子を伺おうとしたわけだが、見事に魅了され、「穢れた聖地巡礼について」を購入した。

本記事では、「穢れた聖地巡礼について」のタイトルの意味や「六部殺し」が示すものについて、ストーリーや主人公らの過去を整理し、考察と感想を述べるものである。

なお、本記事にて作中で明かされた情報を記述する場合、本記事を読んだだけで「穢れた聖地巡礼について」を読んだ気になる人間を産むことだけは避けたい故、最小限の情報のみ記述する。そのため、わかりづらい場合は本編の対応する部分を少し読み直すことをお勧めする。


情報の整理

作品で明らかになる細かい情報をあらかじめまとめておく。

「こんな晩」/「六部殺し」

実在する怪談。
かつて日本に存在した66の国の霊場を巡る六十六部廻国、それを行う修行者である六部を家に泊めた夫婦が金目当てに六部を殺してしまう。しばらくして子をもうけた夫婦だったが、ある日、その子供は父に向かって「俺を殺したのもこんな晩だったな」と発し、その顔は殺した六部のものに変貌していた。
というあらすじのストーリーである。

ストーリー:『私の夢』

これは背筋氏が「穢れた聖地巡礼について」発売に先駆けて公開した掌篇である。無料で読めるため、未読ならばぜひ読んでおいて欲しい。

その他ストーリー

  • 敬一の家出(190P)

  • 『死ね』(220P)

個別の発言

  • 小林「俺たち、この話を選ばさせられてたんじゃないか?」(249P10L)

  • 池田「(宝条父が言うには池田は)誰かを恨んだりしてはいけない」(274P18L)

  • 池田「あんなやつ、死ねばいいのに」(278P6L)

  • 池田「『あなたの番』って」(278P16L)


以上、筆者が「穢れた聖地巡礼について」を読み解くにあたり重要だと考える情報である。"その他ストーリー"に挙げた部分は、一度読み直すものいいかもしれない。

考察

池田がYouTubeで巡った心霊スポット、特にファンブックに使用された心霊スポットは、六十六部廻国で巡る霊場、すなわち聖地である。だが、今となってはその聖地は人々のみだりな願い事によって変質し、人々の恨みを叶える神の宿る穢れた聖地と化している。一部心霊スポットに結界のようなものがあったのはそのため。

そして、「六部殺し」で描写される「ある人間が、自分を死においやった人間の子供に転生しその相手に復讐する」という業報は現実に存在する。

語られていない点としては、その子供は今度は誰かを死に追いやる側へと周り、因果は"輪廻の輪"をなすということ。そして、人に恨みを持つ者が六十六部廻国の聖地の力に頼って呪殺を試みた場合、その者も"輪廻の輪"の内側に取り入られるということ。

一度"輪廻の輪"の内側に入るといつしか人に恨みを持つようになり、その相手を呪う方法を自然に自覚し実行、六十六部廻国の聖地に引き寄せられる。そして、これらの影響は"輪"に取り入られた人の霊によるもの。

恨みを募らせた人物・復讐の対象となった人物・復讐を実行する人物は、

  • ???・池田母・池田

  • 京本涼子・京本幸恵・京本ゆか

  • 『祖母が死んだ日』著者の祖母・著者・???

  • いじめられたナース・お局ナース・(脳死の入院患者)

  • ???・子供を廃墟に置き去りにした母親・置き去りにされた子供

  • 敬一の元交際相手・敬一・???(登場していない敬一の子)

  • 池田・優子・???

などが考えられる。
なお、ナースの件に関しては、一連の事件が聖域で起きた上、脳死患者は彼女の子供ではないため、復讐は脳死患者によって行われたわけではない可能性がある。
また、上のリストはまだ完了していない復讐も含む。

聖地では、頭が風船のように膨らんだ人間が目撃される。これは、今に転生せんとする霊であり、低頭身で首が据わっておらず、目や口は大きく、髪もない。これは赤ん坊の見た目である。

論拠

『死ね』

書籍220ページから始まるストーリーであり、190ページから始まる敬一という男の語りの実質的な続きである。

おそらくこのストーリーが「穢れた聖地巡礼について」を読み解く上で最重要である。

ここを読むまで、「穢れた聖地巡礼について」は過去に闇を抱える3人が心霊スポットやその都市伝説を語るお話だったが、ここから急に毛色が変わり、散りばめられたニュース・事件・体験談などが一気につながっていく。

「穢れた聖地巡礼について」では、散々人を自死に追い込んだ者や追い込まれた者、恨んだ者や恨まれた者が登場するが、ここで初めて死者の行方が明かされる。

死者の語りということもあり非常に読みづらいが、よくわからない、と半分読み飛ばしてしまった方がいるなら今一度読み返して欲しい。敬一を呪わんとした彼女の霊は六十六部廻国を行い、転生を果たし、その上「憎しみにまみれた、愚かな人間」(228P4L)を見つけ、その「人間」が恨む相手を呪ってしまうように唆した。

このような霊、そして聖地という地理的要因が、作中の自殺者や怪奇現象を説明する。そして、この転生こそ、「げんきなあなたがうまれます」の意味である。

女性の霊

ここは解釈が分かれる部分のような気がしている。「憎しみにまみれた、愚かな人間」とは誰なのか、という点である。

というのも、主人公3人は全員「愚か」なのである。第三章の題を見れば明らかである。その上、小林・池田・宝条にもそれぞれ「強欲な簒奪者」「浅はかな巡礼者」「貧しい共犯者」という渾名のようなものがついているが、小林だけ最後は「愚かな簒奪者」となっている。

では小林が唆されたのか?どうもそう思えない。最後の最後に自分のあらゆるものへの興味のなさを嘆いていた男が誰も恨んでいるわけがないのだ。

唆されたのは小林であるとすると全ての合点がいく。そもそも彼の母親は自死しているので彼が"輪廻の輪"の内側にいる可能性も高い上、彼は二度呪殺を唆されている。大学でのこっくりさんもどきと、女性からの謎の電話である。

一度目のこっくりさんもどきは、"輪廻の輪"の内側にいる彼が恨みを募らせた結果の殺意であり、二度目は本当に彼の番が来たのであろう。"輪廻の輪"をつなぐため。

小林は正しい。彼らは"輪"をつなぐため、聖地に関わる話を選ばされていた。だからこそ、宝条父は池田に恨みの感情を持たないように伝える。そうすることで"輪廻の輪"を絶てる可能性があるからだ。

『私の夢』

筆者はこの掌編を本編を読んだ後に読んだのだが、『死ね』の次に物語の核心に迫るストーリーであった。

ここまで長々と六十六部廻国と"輪廻の輪"、そこから生まれてきた負の連鎖について考察したが、そもそも六十六部廻国は、

かつて日本を構成していた66の国ごとの霊場に法華経1部ずつを奉納して行く巡礼である

愛媛大学「六十六部廻国とその巡礼地

とされている。あくまで巡礼であり、呪いの要素なんてないわけだ。この矛盾が『私の夢』で説明される。

つまり六十六部廻国の霊場・聖地が"穢れた聖地"と化してしまった理由は、聖地に存在する神が対価も用意せずに願いを叶えて欲しがる人間に嫌気がさし、一時の気の迷いで生まれた殺意をそのまま叶えてしまう荒魂へと変貌してしまったことによる。

このような変貌が、66の聖地を巡る巡礼を穢れたものへと変質させた。まさに「穢れた聖地巡礼」である。

感想

ここで本記事のタイトル回収をしようと思う。筆者は「呪術廻戦」のファンであり、最近は完結が近いこともあり憂鬱なのだが、「穢れた聖地巡礼について」の読後、これは「呪術廻戦」より「呪術廻戦」じゃないか、という印象だった。ちゃんと呪いが廻ってるじゃん、と。

考察周りの話に戻る。結局、最後の最後まで「強欲な簒奪者」「浅はかな巡礼者」「貧しい共犯者」の意味は分からずじまいだった。まあ、小林の「巡礼者」は彼が"輪廻の輪"の内側にいることを意味しているのだろうが、それだけ挙げても他の説明ができないという理由で考察パートでは割愛した。

作品自体の感想としては、ホラー小説を読み慣れていないのもあって、これどうなんだ?といったところだ。

そもそも、作品を読んでいる間は設定の2割も理解していなかった気がしている。『死ね』も正直よくわかんないけど多分重要なんだろうな、と思い続きを読んだし、読み終わった直後の感想は「で、どういうことなんだってばよ」だった。

今、こうやって記事を書くことでやっと重要な情報の整理がつき、真に作品を理解した(気になっている)状況だ。

非常に楽しめた作品だったが、ホラー小説ですと言われれば本当にそうか?と思ってしまう程度のホラーだった。少し調べた限り他の読者の意見も同様なようで、背筋氏の過去作である「近畿地方のある場所について」の方がよりホラーだった、という意見も散見されたので、読むのが一層楽しみになった。

ただ、考察のし甲斐という点では非常に楽しかった。発売からまだ日が浅いのもあって、考察記事なんか調べても一切出てこない。一から作品への理解を追い求める体験として個人的に非常に楽しかった。

「近畿地方のある場所について」を読み始めてしまいたいのは山々だが、背筋氏が帯文を書いた「右園死児報告」を「穢れた聖地巡礼について」と一緒に買ってしまっているため、そちらを先に読もうと思う。

ホラー小説どころか本をあまり読まない筆者だが、最初に「口に関するアンケート」や「穢れた聖地巡礼について」に出会えたことを幸運に思う。

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