インド人経営者が現代ビジネスにマッチする理由 (インド人リーダーシップ論 #2)
インドには優れた経営者が生まれる土壌がある、と前回の記事で書いた。その謎を解き明かす前に、まずは現代のリーダーにどんな資質が求められるのか、自分が考えるインド人リーダー像とはどんなものかと、その2つのその関連性について自分の考えをまとめてみたい。
世界に名だたるイノベーター兼創業経営者たち
みなさんの頭にある「優れた国際的な経営リーダー」はどんなイメージだろう?
誰の頭にもパッと浮かぶのは、いずれもすでにCEOを退いたAppleのスティーブ・ジョブズ氏(故人) 、Microsoftのビル・ゲイツ氏、Amazonのジェフ・ベソス氏、といったあまりにも有名なビッグ・テック系の企業の経営者だろう。現役のCEOではTeslaとSpaceXのイーロン・マスク氏や、Netflixのリード・ハスティング氏などの最近の型破りな経営者のイメージも強いかもしれない。
日本で言えば、ソフトバンクの孫正義氏、楽天の三木谷浩史氏、ユニクロの柳井正氏は現役で、企業経営に詳しくない人でも知っているはずだ。私はアイリスオーヤマの会長、大山健太郎氏のファンなので、大山氏もここに入れてしまおう(ちなみに宮城県に出張に行った時はアイリスの本社詣でに行ったほどの大ファンだ。本社詣でといっても、ただ外から本社ビルを見上げただけだが…。なぜそんなに好きなのかはいつか機会があったら書きたい)。
今あげた経営者に共通するのは、いずれもいわゆる「創業経営者」、つまり自分のアイディアを元に起業し、たった一代で自分の会社を国際ビジネスに育てあげた人々であること。しかも、彼らはアイディアを商品化するイノベーターであるだけでなく、経営のイノベーターでもある。つまり会社作り自体にこだわり、既存の組織のあり方を壊して革新的な経営で会社を大きくしてきた人たちだ。
現代の経営者に欠かせない4つのキーワード
テクノロジー、グローバル、B2C、M&A。この4つのキーワードも、彼ら成功する企業経営者が持つ共通項であり、現代の国際的な企業経営に欠かせない要素だと思う。
テクノロジーを成長基盤にする
「これからはすべての企業がテクノロジー企業になる」と言われように、どんな伝統的な産業もテクノロジーの基盤なしでは生き残れない時代だ。成功する経営者は業界のデジタルトランスフォーメーションに遅れを取らないだけでなく、技術革新そのものをしかけられる。
グローバル化で限界を広げる
国や地域に偏らず市場を広げることは、国際情勢の変化に対するリスクヘッジになる。特に日本は少子高齢化で国内需要だけでは成長に限界がある。日本的ビジネスへのこだわりを捨て、海外のローカルニーズを捉え、誰よりも早く、深く世界の各地域に自らのブランドを根付かせる経営戦略が必要だ。
B2Cにこだわり顧客満足を追求する
GAFAの成長を見てもわかるように、顧客ベースの大きさと多様性、情報の深さが企業の力と持続力の尺度になりつつある。エンドクライアントの顧客満足を重視し、ニーズを直接汲み取って商品化を柔軟に決断できる経営者は、社会変化や経済危機でも生き残り持続的に成長する企業を育てられる。
M&Aで時差なく拡大する
日本の企業がこだわりがちな「自前主義」は遅れをとる原因になる。自前にない技術、人材、ブランド、顧客ベースを一から育てるよりも、すでにあるものを取り込む方がずっと早く、シナジーは計り知れない。コラボレーションとM&Aをどれだけスピーディーにダイナミックに行えるかによって企業の価値を無限大に高められる。
優位性としてのテクノロジーの知識と英語力
上にあげた4つの能力に共通するのはテクノロジーの知識と国際的なコミュニケーション力(英語力)だろう。
こう考えると、インド人が現代の企業経営者としてうまくハマる理由の一つは自ずと見えてくる。インドは国の高度経済成長を支えるための国策として、早くから数学教育とIT教育に力を入れている。国として独立後、1950年から科学教育に思いが強かったネルー首相がヴィジョンとして掲げたIndian Institutes of Technology(インド工科大学)の設立が始まり 、全国に科学技術教育を広め多くのエンジニアを生み出した。この戦後の教育改革が、テクノロジー企業が台頭する現代においてインドに圧倒的な優位性を生み出したことは間違いない。
インドの英語教育はさらに古い歴史を持っている。インド人の英語人口は国民の1〜2割程度だが、数で言えばアメリカに次いで世界で2番目に英語を話せる人が多い国だ。 これはイギリス統治代の1835年、English Education Act 1835というイギリスによる統治下のインド国民への英語教育と、英語を通じた西洋式の教育カリキュラムが導入されたことに端を発する。
インドには数えきれない数の現地語があって、一応は公用語となっているヒンディ語もすべての国民が話せるわけではない。そのため統一言語の一つとして英語が活用され、国の準公用語になっている。完全に英語で教育を行うEnglish-medium educationも盛んで、子供の頃から家庭と学校で英語を公用語として暮らしてきた人たちの中には、ヒンディ語は話せないが、英語はネイティブだという人もたくさんいる。彼らにとっては当然、言語のバリアなく海外で働くことも、英語圏をマーケットに国際ビジネスを展開することもハードルが低いわけだ。
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テクノロジーと英語については、今後さらに詳しくインドの背景や現地の事情を解説していきたいと思うが、「インド人はテクノロジーと英語に強いから経営者として世界で成功している」という結論では話が終わってしまうし、つまらない。
私が考えているインド人経営者の成功の本質もそこではない。次回はインド人の国民性と、インド人経営リーダーが持つ7つの特徴について考察してみたい。
(つづく)
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