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負債の論理と贈与の論理は対立しない

今日はナタリー・サルトゥー=ラジュ(哲学者)の著書『借りの哲学』の第1章「交換、贈与、借り」より「ヴェニスの商人 - 人間関係が持つ複雑性」と「<贈与>と<負債>が同一の軌跡をたどるとき」を読みました。

「負債の論理と贈与の論理の相似性」について。一部を引用してみます。

だが、アントーニオはなぜ、自らの身を滅ぼすと知っていながら、こんな法外な契約を受け入れたのだろうか?いくら船が港に帰ってくるはずだと言っても、絶対だという保証はない。そのときは友人の借金のために自分が死ぬことになるのだ。また、期日までにシャイロックに金を返せたとしても、バッサーニオが結婚に失敗すれば、三〇〇〇ダカットは戻ってこない。その金はバッサーニオにやったことになる。すなわち、アントーニオはバッサーニオに対して、三〇〇〇ダカットの金か、あるいは自分の命を贈与する契約に署名したのだ。
だが、そこでひとつ重要な問題が出てくる。アントーニオは確かに、バッサーニオに対して「命」を贈与しようとしている。だが、その<贈与>は見返りを - 返礼を求めるものであったのだ。命を捧げることによって、アントーニオはバッサーニオから感謝の気持ちを引き出そうとする。あるいは、バッサーニオに「自分はアントーニオに<借り>がある」という気持ちを抱かせようとする。
この場合、金銭以上のものとは、友人の心である。その究極のかたちは、友人のために命を差し出すことだが、それはひとまず措くとして、金銭を捨てることによって、金銭以上のものを手に入れようとするのはシャイロックと同じである。したがって、シャイロックが体現する<負債の論理>とアントーニオが体現する<贈与の論理>が真っ向から対立するものだとは決して言えない。このふたつは、「金銭を超えたところで<交換>を求める」という意味で、むしろ相似形なのである。あるいは、「相手に<負債>や<借り>をつくらせて、相手を支配しようとする」という意味で......。

「このふたつは、「金銭を超えたところで<交換>を求める」という意味で、むしろ相似形なのである」

この言葉がとても印象的でした。

「負債(借り)の論理」と「贈与の論理」は、真っ向から対立しない。このことは、日常生活の中で何かを贈るときに気に留めておきたいことです。

英国の劇作家・詩人であるウィリアム=シェイクスピアによる『ヴェニスの商人』のあらすじは以下のとおりです(Wikipediaより)。

・ヴェニスの市民で、借金を重ねながら贅沢な暮らしを続けてきたバッサーニオが、友人の裕福な商人アントーニオにあらたな借金を依頼する。
舞台はイタリアのヴェニス(ヴェネツィア)。バサーニオは富豪の娘の相続人ポーシャと結婚するために先立つものが欲しい。そこで、友人のアントーニオから金を借りようとするが、アントーニオの財産は航海中の商船にあり、金を貸すことができない。アントーニオは悪名高い高利貸しのシャイロックに金を借りに行く。アントーニオは金を借りるために、指定された日付までにシャイロックに借りた金を返すことが出来なければ、シャイロックに彼の肉1ポンドを与えなければいけないという条件に合意する。
アントーニオは簡単に金を返す事が出来るつもりであったが、船は難破し、彼は全財産を失ってしまう。シャイロックは、自分の強欲な商売を邪魔されて恨みを募らせていたアントーニオに復讐できる機会を得た事を喜ぶ。
シャイロックはバサーニオから頑として金を受け取らず、裁判に訴え、契約通りアントーニオの肉1ポンドを要求する。若い法学者に扮したポーシャがこの件を担当する事になる。ポーシャはシャイロックに慈悲の心を見せるように促す。しかし、シャイロックは譲らないため、ポーシャは肉を切り取っても良いという判決を下す。
シャイロックは喜んで肉を切り取ろうとするがポーシャは続ける、「肉は切り取っても良いが、契約書にない血を1滴でも流せば、契約違反として全財産を没収する」。仕方なく肉を切り取る事を諦めたシャイロックは、それならばと金を要求するが一度金を受け取る事を拒否していた事から認められず、しかも、アントーニオの命を奪おうとした罪により財産は没収となる。

この物語の中で、アントーニオはバッサーニオのためなら命は惜しくないと主張するわけですが「命を捧げることによって感謝の気持ちを引き出そう」という思惑が裏側にあったわけです。

私たちが日々の生活の中で贈り物を贈るとき「喜んでくれたら嬉しいな」という気持ちを少なからず抱くように思うのですが、この「喜んでほしい」という気持ちに「相手の立場に立ってみると、本当に喜ばしいのだろうか?」と一呼吸を置いて向き合うほうがよいのかもしれません。

「相手が受け取っても気が重くならないだろうか」

あるいは、このように自問してみる。

すぐに実践できる大事なことがまた一つ。

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