【イベント報告】スウェーデンの小学校社会科教科書にある社会の本質。そして「対話の場」の大切さを確かめてきました。
3年前にこの本を読んだときのことを今でもよく覚えています。驚きと感銘。決して大げさではなく、書かれている内容がとても「本質的」で、僕は最初から最後まで唸りっぱなしだったのです。
たとえば本の前半からこんな記述があります。わたしたちが社会に生きているのは・・・
・自分を守るため
・みんなと一緒にいると幸せだから
・一人でいる時よりも多くことを学べるから
小学校の教科書ですよ!簡潔で本質的。しびれますね。繰り返しますがスウェーデンの小学生の教科書です。
▼大学生によるワークショップ
先日この本を題材にしたワークショップが開催され、サポートスタッフとして参加しました。
その名も「投票率85%の国では小学生に何を教えているのか?」です。
(※100人の定員が埋まってしまいました。)
著者の鈴木賢志先生(明治大学教授)のゼミ生たちが進行。社会人と学生が場を共にして、教育のこと、社会のこと、日本の課題などを一緒に考えました。本当に活気溢れるワークショップとなりました。
主催:
北欧の教育・学びLilla Turen
http://lillaturen.com/ja/
企画:
明治大学 国際日本学部 鈴木ゼミ
https://ameblo.jp/hej-suzukiseminar/
株式会社ノルディック・インスピレーション
https://nordic-inspirations.com/
協力:
一般社団法人スウェーデン社会研究所
http://jissnet.com/
▼教科書にはその国の価値観が表れる
子どもに何を教えるのか。それは「その国が大切にしているもの」であり、きっと国民一人ひとりの価値観となり、国の特性につながる。そんなことを感じさせられます。
(そしてきっと日本の教科書には日本のそれらが反映しているはずです。)
一人ひとりの意見が尊重されるべきであること。社会の一員として何ができるのか個人が自分で考えるべきであること。ルールは守るだけのものではなく、変えるもの、作るものであること。
この社会科の教科書には、スウェーデンという国の価値観がはっきりと感じ取れるのです。
▼日本のことを考えさせられた
スウェーデンの社会科教科書を通して私たちが向き合うことになったのは「日本人として望むもの」と「日本に足りないもの」でした。私たちは、何を望んでいるのか、何を望む「べき」なのか。それらを得るためには、何が足りないのか。どうすれば解決するのか。痛感したのは、そういったことは日ごろあまり深く考えていない、という事実。それと同時に、日常から少し離れていろんな人たちと語り合うことは、実に良い機会なのだということ。
ワークショップの内容の詳細は後述しますが、熱気溢れるグループワークの最後、それぞれのグループが考案した「アクションプラン」には、対話の場をもつとか、年代を越えたイベントを開くとか、人々が集う場を提案するものが少なくありませんでした。
きっと、日本に暮らしている僕たちに、対話の場が足りない(必要だ)、ということをストレートに物語っているのです。きっと、スウェーデンの社会科の教科書が気づかせてくれたのでしょう。
▼社会の教科書は「社会とは何か?」から始まる
書籍『スウェーデンの小学校社会科の教科書を読む』は全6章からなります。
第1章 社会
際2章 メディア
第3章 個人と集団
第4章 経済
第5章 政治
第6章 法律と権利
ちなみに本書で取り上げている教科書は、日本でいう小学校高学年とのこと(本書「まえがき」より)。まずハッとするのは、社会科の教科書が「社会とは何か」から書かれていることです。よく考えれば当然のこと。実際にはこんなことが書いてあります。
(以下、引用です)
・社会とは何か、また社会がどのように成り立っているかについて、友達と確かめてみましょう。
・社会には、目に見えないものもあります。例えば法律、男女の役割、男女平等、民主制、そして税金などです。目に見えるものとしては、学校や病院、道路、家、車、牢屋などがあります。
自分が教わった社会科ってどんな内容だったかな?と思い返すと少し虚しい気持ちにもなりますが、日本の教育が目指すもの=学力(知識)だからなのでしょう。
▼民主的であるとは?
ワークでは、独裁国家を仮定し、どのルールを直すべきかを考えていきます。これは本質的で、また実践的なクイズです。
※実際にスウェーデンの教科書に出てくるワークなのです。
(小学校の教科書ですよ!再掲)
まず独裁国家には10のルールがあるとします。このうち直すべきだと思うものを3つ絞りましょうというのがワークです。それを同じテーブルに座った5−6人とシェアをしながら、次のようなことを話し合います。
「10の独裁ルールのうち、どれを変えたいかを3つ挙げる」
「それを変えたら、人々のくらしがどう変わるかを書いてみる」
「国」がどうなるとか、
「社会全体」がどうなるとかではなく
「人々のくらし」がどうなるか。
良い設定だと思いました。
人々のくらしの変化を想像することが、このワークの肝だと思った僕は、国がどうすべきとか社会はこうあるべきと言った意見が出てしまいがちななか、人々に話が向かうようにファシリテーションしました。最初はバラバラと軽い意見が出たあとに、どんどん本質的な答えが出てきました。
「疑う態度をもつようになる」
「日頃からよく考える」
「改善点に目がいく」
「社会改善への意欲が芽生える」
「自分たちが社会を作るのだという意識」
「おまかせ民主主義」という嫌味な日本語がありますが、そこからの脱却は現在の僕たち日本人のテーマでしょう。おまかせの逆は自治。自治をするということのリアリティは、上のような日々の営みのことなのかもしれません。僕のいたグループで出た意見のすべては「心構え」だったのです。
▼わたしたちは何を望むのか
いくつかのワークを終えて、最後にグループで話し合ったのは、日本で起こすプロジェクト作り。アクションプランです。
まず、個人で自分のやってみたいことを紙に書きます。そして会場全体にばらけて歩きながらテーマの近い人を探していきます。
みなさんが自分の紙を掲げて仲間を探す姿は、まるで市場のよう。
ワイワイ、ガヤガヤと部屋の熱気が高まって行きます。時間がたつにつれて、徐々に場の熱量が増していくのが面白い。とても動的なワークショップになっていきます。
<関心の近い人を探す時間。熱気が溢れています>
<とても広いスペースでしたが、密度が高く感じられます>
誰を対象にするのか、いつ使うのか、それを使うことでその人がどのように変わることができるのか。具体的に書き起こしていきます。そして8つくらいのグループが、最後に全体に共有しました。
・「面白い大人」と子供たちとの接点
・子供が親を推薦する「親による講演会」
・ソーシャル鍋
・デモ・コンテスト(デモ・ホリデー)
・情報発信xアートのプラットフォーム
・教育立国のための教育費無償化
人間関係を作るという趣旨のものが多かったのです。何が足りないのかを考えた結果、その答えが人と人との交流、良質な人間関係だったということでしょうか。
良質な人間関係は、課題の再認識や、課題改善への連帯意識、そして豊かなアイデアを創発します。その土台は人間が交わる場です。さらにその土台は、人々が時間に余裕があること。心に余裕があることでしょう。
これらは私たちの課題でもあり、もし改善が見通せれば、その先に広がる可能性でもある。
そんなことを心地よく感じるアウトプットでした。
▼人と対話することで、心が洗われた
長いワークショップイベントが終わった後に、不思議と新鮮な感情が湧き上がってきました。自分の中にある純粋な感情、想像力、そして明日への意欲でした。
当日、直接交流した人の数は限られますが、それぞれ素敵な感性を持った人たちが集まっていました。きっとスウェーデンという「道具」が、年齢層を問わず、集うための機能を果たしたのでしょう。
▼終わりに ~社会人の力、大学生の可能性~
今回、企画と進行をやった鈴木ゼミの学生たちは、実にフレッシュで、みずみずしい意欲を持ち、そして適度にゆるい(堅苦しくない)感じで、一般の参加者が話しやすい雰囲気を作り上げていました。
参加者の多くは社会人たちです。
何度かツッコミが入ったり助け舟が出たりと、柔らかな共創が起こりました。その都度、笑いが起こりました。
すばらしい。
僕は、世の中の問題を少しでも減らしたい、人と人がつながる場を作りたい、そう思って、ここ何年かいろいろなことを始めています。それらが継続するよう、ちょっと無理をしてでも頑張っています。
それらは、決してすぐに実りが出るものではありません。うまくいかないこともあります。
時には閉塞感を感じていた僕にとって、たいへん個人的ですが忘れられないワークショップになりました。
この日のことが、これからの僕に「世の中には協力者がたくさんいるに違いない」そう確信させてくれることでしょう。これからの僕の背中を押してくれることでしょう。今はまだ見ぬ仲間たちの存在を、いつも想像させてくれることでしょう。
そして何よりも、思い起こすと一日中まったく口を出さずゼミ生たちを見守っていた、指導教官の鈴木賢志先生がとても素敵でした。
※これだけの盛大なワークショップを、ゼロから企画し、鈴木先生へ持ちかけ、当日の進行まで全部をやってのけた(かつ短期間で!)、主催のLilla Turenの轡田いずみさんには、尊敬の念が尽きません。
Urano the middle-aged learner
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文章:浦野真理 写真:岡桃子
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