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ハヤカワ春のロートル祭り

「ヤ○ザキ春のパン祭り」みたいなノリでタイトル付けてみました。早川書房非公認の推し企画。ワタクシが勝手に小説をお勧めする企画です。

春はロートル

 四月ってね、出版業界の皆さん、「新社会人応援」とか謳って、明るくてポジティブな気持ちになる小説をどうぞ! なんて言ったりするけど、ぶっちゃけ、新社会人ってそんなに余裕ないですよね?

 自分が就職したての頃、そんな余裕ってありました?
 社会人として必要な実用書みたいなものを読んで、実務レベルの知識を付けるのに必死だったし。っていうか、会社で緊張して仕事覚えて、家に帰ってから本とか読めないし。
 文芸とか、まして長編小説を読む時間も体力もそんなにないと思うんですよね。小説を読むなら、さくっと読めるショートショートとか、頑張ってまぁ、短編小説とか、ですかね。

 むしろね、春は、新社会人を迎える側の、先輩既卒社員の方に、

 ――今の自分は、あのとき憧れていた先輩に近づいているだろうか
 ――新人時代にお世話になった上司のように振舞えているだろうか

 と、自分自身を振り返るきっかけとして、積極的に文芸書を読んでいただいた方がいい気がするんですよ。うん。

 上司とか先輩の「人間力」によって、新人の伸び方って違いますよ。

と、言うわけでですね「ハヤカワ春のロートル祭り」と題して、格好いいロートルキャラの出てくる小説をピックアップしてご紹介しまーす。

インテリ&ジェントルおぢ編

ジョージ・スマイリ―
『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』から始まり、『スクールボーイ閣下』、そして『スマイリーと仲間たち』へと続く、いわゆる「スマイリー三部作」の登場人物。

 一見冴えない風貌で、プライベートでは妻との間に寒風が吹いていて、その上さらに、職場であった英国情報部からは放逐されてしまう。
 が、国家への忠誠心と正義への情熱から、自分と上司を放逐した憎むべき二重スパイに肉薄し、その黒幕であるカーラと静かでし烈な頭脳戦を繰り広げる――というのが『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』の内容。

 映画化もされていて(邦題は『裏切りのサーカス』)、スマイリーはゲイリー・オールドマンが演じています。

https://www.youtube.com/watch?v=cUa1P_KCwoM

 ぶっちゃけ、原作での描写を考えると、このゲイリー・スマイリーはちょっと格好良すぎる気がします。私のイメージでは、ジェイソン・ワトキンスあたりが眼鏡をかけて陰鬱な表情をしている感じ。

 とは言え、映画としての絵力を考えると、やはりゲイリーで正解だったのでしょう。結果として、アカデミー三部門ノミネート(主演男優賞、脚色賞、作曲賞)という素晴らしい結果を残していますから。
 自分的には、ビル・ローチ役の少年が非常にハマっていて印象に残りましたね。子役とは思えない、あのなんとも言えない表情! 天才か!

 とまあ、つらつらと書いてきましたが、ストーリーがすこぶる複雑なので、映画の方は二度見三度見しないと、ちょっと全容を摑めない人もいるのではないでしょうか(私は数回見てやっと全容がわかりました。映画の途中でなぜかジム・プリドーとリッキー・ターがごっちゃになって区別がつかなくなった)。
 なので、書籍の方をじっくり読み込んで予習をしてから映画を見るという順番がお勧めです。

『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』
https://www.hayakawa-online.co.jp/product/books/31253.html


烏丸少将
 第41回日本SF大賞受賞作である『星系出雲の兵站 全九巻』の後半である『星系出雲の兵站―遠征』において、脇キャラながら強烈かつ鮮烈な印象を残す人物。

 以下、『星系出雲の兵站』アマゾンの紹介文。
人類の播種船により植民された五星系文明。辺境の壱岐星系で人類外の産物らしき無人衛星が発見された。非常事態に出雲星系を根拠地とするコンソーシアム艦隊は、参謀本部の水神魁吾、軍務局の火伏礼二両大佐の壱岐派遣を決定、内政介入を企図する。壱岐政府筆頭執政官のタオ迫水はそれに対抗し、主権確保に奔走する。双方の政治的・軍事的思惑が入り乱れるなか、衛星の正体が判明する――新ミリタリーSFシリーズ開幕。

 世界観が遠大なので端的に紹介しずらいのですが、ざっくりいうと、作中では、人類、もう地球を離れて暮らしています。地球に暮らしていた時代はすっかり過去のもの、もう伝説レベルです。じゃあ、今人類が暮らしているのはどこ? って話ですが、出雲、八島、周防、瑞穂、隠岐っていう五つの星系に分かれて暮らしています。各星系、それぞれに豊かだったりそうでもなかったりと経済や文明の格差があったり、人材流出の問題なんてのもあったりします。
 で、そのうちの一つで、人類以外の文明の産物らしきものが発見されます。
「やばーい! これってファースト・コンタクトかも?」っていう状況に陥って、政府高官も軍の偉い人もみんなワタワタして……って感じでお話が展開していきます。

 烏丸さんは、異星人(?)との情報戦、駆け引き、あるいはコミュニケーションをはかるために抜擢された人物なのですが、一言で言うとお茶目で飄々とした天才。一緒にお仕事する人たちも、彼の言動に、最初はちょっと戸惑って「技量は高いが浮世離れ」した人物と評するわけです。
 が、しかし! 実際に、言葉もコミュニケーション手段も見た目も地球人と全く異なる異星人と対峙して、各種オペレーションを展開し始めると、その本領が発揮されるのです。
 目の前の現象をどのように解釈するのか、自分達の情報を与えずに相手の情報を得るにはどう動くのべきなのか、言葉の通じない相手との意思疎通を図るには何から始めるべきか――烏丸さんが出した指示の意図が明かされる度に「その発想はなかった!」とハッとさせられるのがとても良いのです。普通に生活していると、改めて考えることのない問題を敢えて考えることで得られる気づきは、SFのだいご味と言えるのではないでしょうか。
 こちらもぜひ小説をお読みいただきたい。

 ちなみにこちらのシリーズ、Rei.Horiさんによるカバー画もとても素敵。
http://www.yk.rim.or.jp/~reyhori/pages/sel_publications.html

『星系出雲の兵站 1』(『遠征』から読みはじめても内容を摑みにくいので、ここから始めましょう)
https://www.hayakawa-online.co.jp/shopdetail/000000013966/author_HAgyo_HA_3039/page1/order/

 さて、いろいろ、つらつら個人的な勝手な感想を書いてきましたが、結論としてはですね、どちらの作品もとても面白いです。

超お勧めです。

さて、次回は

インデペンダント&ディーセントおば編

として、
『マルドゥック・アノニマス』から
ベル・ウィング
『ホライズン・ゲート』から
ミス・シンイー
をピック・アップ予定。

お楽しみに~。


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