黒沢清 セルフリメイク作『蛇の道』 感想
大前提として、オリジナル作品は全く観ていないという前提での感想コメントです。
なんだ、これは子供の人身売買、臓器売買を裏で行う組織(財団)とそれを追う心療内科医の医師サヨコ(柴咲コウ)の物語なのか!
ですが、それは最初からは語られず、
サヨコはなぜ娘を殺されたアルベールが犯人を探し復讐する手助けをしているのか、何か彼女自身に動機があるのか、そこはぼやかして描かれる。
もちろん、注意深く観ていると、想像に難くないようには出来ているのだけど(サヨコ自身が復讐を遂げるために、アルベールを利用しているのではという想像)。
例えば途中、アルベールが射殺した組織関係者の1人を、サヨコ自身がナイフで何度も刺すシーンがあります。
終始表情を変えずに冷静な態度のサヨコがその時ばかりは感情が爆発した様子で死体にナイフを何度も突き立てる。
そこではじめて「ははん、これはサヨコ自身に相当な恨みがあるんだな」というのが示唆されます。
そして、黒幕含めて子供の拉致事件に関係していた組織関係者に復讐を果たして全てが片付いたと思ったものの、
実はその組織に自分の子供を差し出した人物はあなただったのか、という時の表情。
うむ、サヨコ=柴咲コウ、怖い!
それにしても、この映画は黒沢清作品としてはかなり観やすい方なのではないか。
サスペンスや謎解きの要素もあり、退屈せずに最後まで引っ張られる(多分に、それはサヨコ演じる柴崎コウの演技にもあるかもしれない)、じゅうぶんエンタメになっている。
そして、ホラー要素とは無縁の今作にあっても、さすが黒沢清といえるホラー演出も垣間見える。
サヨコが夜、部屋で日本にいる元夫とビデオ通話している時、何故かカメラは彼女から外れて後ろの少し開いた部屋の扉の暗がりを映すシーンがある。
あれは何?
暗闇の奥にうっすら何か写っているのか?
観終わってみて考えたのは、あそこに写っている(かもしれない)何かは、
「お母さん、犯人はお父さんだよ」
と教えてくれているのかもしれない、と思ったりして。
もちろん、ツッコミどころは無いというと嘘になる。
いや、あちこちにある。
そんな重箱の隅を突っつきだしたら破綻してしまうのだが、そんなことはもうどうでもいいんです、黒沢清作品においては。
ということで、これは観てよかったなと思いました。
オリジナル版を観てみようかなと思うが、このリメイク版が殊の外よかったので、
「ひょっとしてがっかりするのもどうかな、Vシネだしな」
とか失礼なことを思いつつオリジナル版を観る踏ん切りがまだ付いていません。
<了>