
クリント・イーストウッド新作は配信のみだけど見逃してはいけない『陪審員2番』
なんと、クリント・イーストウッドの新作が配信だけだなんて信じられますか?
あり得ないけれど、これも現実。
なんだか釈然としないまま気がついたら配信開始から一月半近く経ってました。
これだから配信は有り難みがないんだ、とかブツブツ言いながら本日観ました。
クリント・イーストウッドはやっぱり映画の天才。
これが最後の作品とも噂されているのですが、まぁ年齢が年齢なだけにあまり無茶は言えないですが。。。
いやだ、イーストウッド監督作品をもっと観たい!
インサイドオブ陪審員制度みたいな映画としては『12人の怒れる男』がありますが、実はこれは観たことないんです。
その代わり三谷幸喜の戯曲を映画化した『12人の優しい日本人』は何度か観たことがあるんです。
元ネタの映画とは全然違いますか?そうですか。
しかしですね、三谷幸喜版の映画もそれはそれはめっぽう面白くて、実際に日本でも陪審員制度が始まってからも、
「面倒くさそうだけど、陪審員に選出されてみたいな」
なんて思ったりします。
人間って面白いんですよ。
最初の思い込みの印象なんて、他人と話をして色んな意見を聴いているうちにどんどん変わっていくんですから。
いや、頑固に曲げずに全然変わらない人もいますよ、それは。
でも、そう云う人は比較的まれなんじゃないでしょうか。
そもそもハナから人の話なんて聴いちゃいないんですね、そういう人は。
まぁ、シャイで自分の意見を言葉にして話す訓練をほとんど受けていない日本人で本当に陪審員制度なんてできるのか?という点でも、一度参加してみたいような気はします。
で、このイーストウッド版陪審員制度の話なんです。
そういえば怒れる12人の「男」じゃないんですね現代は、当たり前ですが。
逆に昔は全員男性だったというのが怖いですが。
今作は現代のアメリカの陪審員制度ですから、ダイバシティに富んでます。
男性、女性、人種も様々で、日本人らしき医学生も出てきています。
今作も陪審員室での会話が、分量少なめでメインではないですが、それでも結構ヒリヒリするような会話が出てきます。
そして、過去作と同じく最初の(仮の)評決が会話を進めていく中でどんどん変わっていくんです。
面白いですよね。
そして、今作が並の陪審員制度を描いたものと大きく違うのが、当の事件の真犯人が陪審員の中にいるんだということです。
これがサスペンス要素を爆上げしていて、終始手に汗握るんです。
真犯人の彼は知らずに被告になってしまっていて、しかもこの事件の裁判の陪審員になるまで人が亡くなっていたということも知らなかったということなんで、悪い奴ではない至って普通の人間なんです。
しかも、過去に飲酒で人生を踏み外しかけたことがあり、そして生まれてくる子供と家族のために更正しようとしているんです。
その真犯人役がニコラス・ホルトなんですが、彼は困らせ顔をさせたら右に出るものはいないんじゃないでしょうか。
事件の中身がわかってくるにつれ、これって自分が犯人じゃ?と気づきはじめて、やがて確信に変わるんですが、
だからといって、ここで名乗りを上げる訳にはいかない、隠し通したい。
だけど有罪判決になって明らかに犯人にではない人間を殺人犯にする訳にもいかない。
そんなわけで内心揺れ動きっ放しで、終始困った顔なんです。
陪審員での協議が始まって、最初は全員一致で有罪だったのに、彼だけが「ちゃんと話をして決めようよ」とか言い出しちゃうんです。
(もう一人元警官も判断保留という感じでしたが)
バカバカバカ、ここで知らんぷりしちゃえば、その後も思い悩むこともないし、サクッと追われるのに。
しかし、そうは簡単じゃないんですよね、人間って。
そして、そこまで簡単に邪悪にはなりきれないのが人間ってやつで、
そこにぐぐぐっと入り込んでいくのがイーストウッドはとても上手い。
あっと言う間に2時間が過ぎてしまうくらいの面白さ。
さて、裁判の結果はどうなるのか。
これが見せ場なんですが、いったんそうなったのかと思わせておいてのオーラスの余韻を残して落ち方も素晴らしい。
うーん、結局どうなるの!!?って。
イーストウッド監督に振り回されっ放しですやん。
出演しているキャスト人も結構豪華で、誰かと思えばあらこの人がみたいな。
ヘレディタリーのお母さんが検事役だったり、
セッションの鬼教師が元警察官で事件の真相に迫っていたり、
24で命をかけてテロと闘う捜査官が事件に闇に葬ったままでいいんじゃね?と提案するリアリストな弁護士だったり。
このあたりも見どころ。
いずれにせよ、映画巧者、映画の神、どんな呼び方をしてもいいけれど、
クリント・イーストウッド作品に外れ無しは今作でも証明してくれました。
惜しむらくはU-NEXT会員にしかリーチ出来ていないていうこと。
U-NEXT、月会費が高めですから。
せめて配信プラットフォームを囲い込むんじゃなくて色んなところで配信して欲しい。
いや、本当は映画館で上映して欲しい。
<了>