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映画はなくならない、映画と別れてなんかやらない 『サマーフィルムにのって』

素晴らしい映画を観た。
映画愛に溢れた青春映画『サマーフィルムにのって』

時代劇をこよなく愛する、それも勝新太郎の座頭市を愛する女子高校生が
突然現れた青年に一目惚れ、彼を主役に自分も時代劇を撮るんだと
落ちこぼれの同級生達に自主制作映画作りを手伝ってもらうよう声を掛けていく。
「このひと夏の時間を私にくれ!」

いつものごとく、映画の内容についてはほとんど前情報は仕入れずにいた。
絶賛する声が多かった、くらいのぼんやりとした情報だけを頼りに。

ネットでの検索した映画のジャンルは「SF/ロマンス」。
公式サイトでは「恋×友情×時代劇×SF×青春映画」となっている。
なんだか色んな要素てんこ盛りのごった煮みたいだけど、いやいやどうして
全然とっ散らかった印象はなく、97分という絶妙な長さにまとまった小気味良い映画だ。

監督および共同脚本の松本壮史さんはこれが最初の長編映画だという。
まだ30代半ばのようなので、これからバリバリこういう素晴らしい映画を撮って欲しい。

なんといってもこの映画は、出てくる俳優達がみんなとにかく輝いている。
映画撮影を行うメインの女子高生3人組が素晴らしい。
ビート板役の河合優実さん、ブルーハワイ役の祷キララさん、
そして圧倒的な生命力で主人公のハダシを演じた伊藤万理華さん。
特に伊藤万理華さんはなんという逸材だろう。
元乃木坂46なんて肩書がかえって邪魔になるくらい上手い。
大林宣彦監督『転校生』の小林聡美さんに匹敵するんじゃないかと思った。

この3人の役名もいいなぁ。
なんやねん、ビート板にブルーハワイにハダシって(笑)!

未来からやってきた謎の少年凛太郎を演じる金子大地さんもナイーブな演技がとてもいい。

仲間たちのサイドストーリーも何気に素敵だ。
デコ自転車に乗る照明係のヤンキーと、録音係のイケてない2人組。
リアルな世界では決して接点がないであろう彼ら。
むしろイジメる側とイジメられる側であろう彼らが、映画作りを一緒にすることで友情が芽生えている。
ハダシが「このリア充どもめ」とライバル視していた映画部の花鈴も、やっぱりラブコメジャンルの映画好きな女子高生だったというだけで、ハダシの映画作りも無条件で応援する。

そして、台詞の数々も素晴らしい。

ハダシが最後のシーンの撮影に出掛けた夏合宿。
この映画が完成して文化祭での上映が終わると未来に戻るというりんたろう。
最後のシーンをどうしようか悩んでいたハダシが吹っ切れて宣言する。

映画はなくならない
私がなくならせない
さようなら、って言ってやらない
映画と別れてなんかやらない
だから、このラストで、"いのたろう"は"ねのすけ"を斬らない
さようならって言わない
二人で一緒に未来を生きるんだ

そうして、なんとかラストシーンを撮り終えて映画は完成したものの、
りんたろうと別れの日にもなる文化祭での完成した映画の上映。
ラストシーンで突然ハダシが途中で上映を止める。

なんか、やっぱ、このラストシーン違うなって思って
時代劇って愛の話だって思って
主役と対峙する最高のライバル、最高の仇は世界で一人だけ
お前だけなんです
それってなんか、ラブストーリーみたいだなって

「ごめん、もう1回やらせて!」

そしてその場で、ほうきやモップを片手に本当のラストシーンの撮影が始まる。
最後にりんたろうと対峙する敵役はハダシ。
りんたろうと対峙するハダシ、ここではっきり自分がりんたろうを好きだったことを告白し、りんたろうもしっかりと受け止める。

りんたろうに、文化祭が終わったらこの映画は捨てなきゃいけないんだろうと言うハダシ。

残念だよね、でもやっぱ、捨ててもこの映画は無くなんない

あなたが見てくれた、見つめてくれた
私が 時代劇に感動して、それを繋ぐために映画を撮りはじめたみたいに
この映画を見たりんたろうが、きっと未来に繋いでくれる
でしょ?

それを聞いたりんろうもしっかり映画を受け継ぐことを約束する。

もちろんです
俺、未来で映画撮ります
むちゃくちゃ大変だと思うけど、絶対に撮ってみせます
この物語、大好きです

そして、二人は最後に剣を合わせるストップモーションで映画は終わる。

なんという最高のエンディング。
気がついたら涙が溢れていた。
本当に映画愛に溢れた素晴らしい映画を観せてもらった。
映画を好きでいて本当に良かったと思える、そんな映画。

映画はなくならない!

<了>

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