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デンマークで小惑星が地球に衝突することを描くと〜『メランコリア』

静かで美しい旋律をバックに登場人物のスローモーションカット、そして小惑星が地球に衝突する。

冒頭からネタバレしちゃうんだと思った。

タイトルの「メランコリア」はどういう意味だろうか?
言葉の意味でけだと、憂鬱とか、深い悲しみの感情とかなんだが。

場面は変わって、とある豪邸でのとてつもないお金のかかった結婚式の模様が描かれる。

新婦は主人公のキルステン・ダンスト演じるジャスティン。
この人がかなり困った女性のようだ。

結婚式を喜んでいるのか、うんざりしているのか、感情が揺れている。
というか、なんだかぶっ壊れてる。
この豪邸の持ち主のジョンとその妻、実姉のクレア(シャルロット・ゲンズブール)が主催してくれた結婚パーティのようだが。
そんな大事な結婚パーティの夜に、会社の上司に本音に言い放ち、新婚ほやほやの夫ともいきなり別れることになり、
何もかもぶっ壊してしまう。
相当に困った人だ。
身内だったらたまらないだろうな。
メランコリアは鬱という意味もあるが、ジャスティンのことなのか?

それにしても、パーティは2時間遅れでスタートしたにしても、
23:30からケーキカット。
それからも色々あって、
うむ、海外のパーティっていったい何時までやるんだろう?

そして、ちょうど半分くらい過ぎたところで、「2部 Clair」のクレジットとともに第2幕になる。

そして、2部がはじまってすぐに、どうやら地球に衝突する小惑星の名前がメランコリアだということが分かる。

屋敷の主でクレアの夫ジョンは、クレアや息子のレオンには、
「メランコリアは地球には衝突しないで接近通過だ。科学者もそう言っている」
ということみたいだが。

ジャスティンがボロボロの状態でタクシーで屋敷にやってくる。
眠ったきりで好物のミートローフも喉を通らずに泣いてしまう。
何かが原因で精神の均衡を崩している、鬱の症状。

ボトルから直接ジャムを指で舐めてたり、と様子がおかしい。

そして、空には蒼い惑星=メランコリアが大きく見えるようになる。
夜になると馬たちが落ち着きなく暴れ出す。
何かを感じているのだろうか。

クレアも気丈には振る舞っているが蒼い惑星=メランコリアが気になって仕方ない。
そして、彼女も徐々に精神が不安定になっていく。

一方でジャスティンはメランコリアに魅せられて落ち着きを取り戻していくように見える。

夜にメランコリアが地球に最接近して通過するという日、執事?のリトルファーザーがはじめて無断欠勤しているとクレアが言う。

家族と一緒に過ごしたんじゃないの?
ジャスティンは事も無げに言う。

実際にはメランコリアは地球に衝突するというのが本当なのか。

(オープニングでは地球に衝突しているが)どちらが真実か分からないまま、23時になる。
地平線から巨大な蒼い星が登ってくる。 

衝突するのか、通過するのか。

しかし、衝突はせずに小さく遠ざかっていくメランコリア。
どうやら、この夜はメランコリアは通過しただけのようだ。
ほっと安堵するクレア。

翌朝、昨夜とは打って変わってメランコリアの観測を続けながら不安そうなジョン。
クレアも改めて惑星を見る。
大きくなっている。
やはり衝突するのか?
気がつくとジョンがいない。

ジョンを探すクレア。
もしもの時に備えて買ってあった毒薬のボトルが空になっている。
馬たちが静かになっているので、もしやと馬小屋を見に行くとそこには毒を飲んで息絶えているジョンがいた。
馬を逃すクレア。

朝食を作って気丈に振る舞っているクレア。
しかし、明らかに大きくなっているメランコリア。
居ても立っても居られず、息子のレオを連れてとにかく村へ逃げなければ動転するクレア。
車は2台ともエンジンがかからず、ゴルフカートで逃げ出すが途中でガス欠になって進めなくなる。
ゴルフカートを置いてレオを抱いて何処かへ行こうとするが、激しい雹が降ってきた。
レオを抱えて歩いて屋敷まで戻って来たクレア。

父親のジョンは酷い身勝手なやつだな。
自分だけ先に逝くなんて。
せめて最期は家族と一緒に居てやれよ。

その時が来るまでは不安定だったジャスティンだが、その時が目前に来ると運命を受け入れるジャスティン。
一方、姉のクレアは気丈に振る舞っていたが、その時が来ると運命を受け入れられずにジタバタとあがく。

森で拾った木の枝で作った魔法のシェルターで、その時を待つ3人。
蒼く光るメランコリーが画面一杯まで巨大になり衝突する場面で映画は突然終わる。

なんだか、凄まじい映画だった。

もし、半年後に地球に小惑星がぶつかると言われたらどうするだろう。
どんな生活になるだろう。
いつもと同じように普通の暮らしが出来るだろうか。

そして最期の時、自分はどちらだろうか。
ジョンのようにその時を待たずに恐れをなして先に逝くのか。
いや、それは無いな。
ワンチャンあるかもと思うだろう。
そういう意味では、最期までジタバタとしてしまうクレアと同じなんだろうか。

それにしても、惑星地球衝突という同じテーマで映画を撮っても国によって全く違うのが面白い。

マイケル・ベイ監督のアメリカ映画『アルマゲドン』では惑星は地球に衝突しない。
民間人の献身的な働きによって地球は助かる。
ヒーローイズム満載。
いかにもアメリカン。

アダム・マッケイ監督のイギリスNetflixオリジナル映画『ドント・ルック・アップ』では、地球は見事に木っ端微塵になるが、あくまでもオフビートコメディ要素たっぷりにかなりの毒を持って描かれる。
あくまでも皮肉たっぷりに斜に構えながら笑い飛ばすのはモンティ・パイソンから続くイギリス伝統だろうか。

そして、デンマーク制作の本作でも惑星は地球に衝突するが、イギリスとは全く違う感性で、神秘的な映像と人間の心の深いところに焦点を当てて描かれる。

<了>

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