『「ほらみなさんアッチにテレビ」』
遺書のかきかた教室というのがあると知って
おしまいの活動すなわち終活を考える身としては
これは是非にと思いもうしこんだ
地元の公民館は同世代のじじばばで満席
やれアッチが痛いコッチが痛い
嫁が憎い孫がそっけない
時間になって
てっきり弁護士やら書士やらのセンセイが
お見えになるものとばかり思い込んでいたら
現れたのはベレー帽にセーターの男性
いいや近頃は身なりで判断したらダメ
わたしらより一回りほど若そうな彼
実は行政書士のセンセイだったり
「えぇご参集ありがとうございます詩人の田亀きゅうじろうです」
とそんなことはなかった
「きょうはおしまいの活動すなわち終活にふさわしいポエム」
あぁやっぱりそうきたか
「これのかきかたなんぞを弁じようと存じます」
思ってたのと違うというのはこのことで
カネ返せ責任者を出せ
あんのじょう聴衆はざわついたわけ
「あぁどうかみなさん落ち着いて」
場を納めようと両手を広げて
おさめるようなしぐさの詩人
「ほらみなさんアッチにテレビ」
指さした講堂の入口のほうに
テレビカメラとアシスタントが数名
「きょうはこの模様を撮影してもらいます」
あぁらいやだこんなかっこうで来ちゃった
いーえあたしなんかすっぴんよう
そんなこんなでひと盛り上がりのじじいばばあ
「ИHKしちじのニュースでやるようです」
娯楽と言ったらテレビ
テレビと言ったらИHKしかないわたしら世代
きゃあと喜び家族に電話
ビディオをとっておけよう
「それではほんじつの聴講料およびИHKの配信料を」
そう言って詩人はベレー帽をぬぐと
最前列のばばあに裏返しでそれを渡して
会場を一周するように言っていた
詩人の使いのばばあも嫌々ながら
でもこれが全国ほうそうに流れるってわけで
いやでもやるしかなくて
わたしらもどうしていいかわからず
相場もあいまいなまま
詩人のベレー帽に千円札を3枚押し込んだ
それにしてもИHKが配信側からカネ取るのね