『別調整組B(浮橋)』
「おゴールデンウィークだっつてえ!」
「うぃす!」
「浮かれてんじゃねぇぞぉ!」
「うぃす!!」
「夏はもうすぐそこだぁ!」
「うぃす!!!」
「散れぇ!」
「うぇーす!!!!!」
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「散れぇ!」
「あの、か、監督…」
「なんだぁ!あ、う、浮橋…」
「あの…」
「なに…」
「あの僕だけ…」
「仕方ないんだ…」
「そうですよね…」
「申し訳ないけどさ…」
「わかりました…」
「後で様子みにいくから…」
「うぃす…」
「お疲れ様です濡ト場先生」
「あら野球部の太谷先生」
「どうです浮橋のやつは」
「どう…と申しましてもねえ…」
「そんなにひどいですか…?」
「英語以前の問題ではないかしら…」
「そうですか…」
「高三を留年してアルファベットすら…」
「やはり私の責任です…」
「あら太谷先生は悪くありませんわ」
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浮橋 渡はかつて
その将来を嘱望された球児だった
高校生離れした肉体と技術は
飛び級でプロ野球
いや渡米しても
即座に通用するほどと言われた
ところが昨年の夏
突然の不幸が浮橋を襲った
高三の夏を
全国制覇で締めくくった
浮橋擁するそのチームが
優勝旗を母校へ持ち帰る途中
高速道路で自身らの乗る
バスが横転した
幸いにも
ほとんどの部員は無傷
野球を続けることも支障はないと
そう思われた
ただひとり
浮橋を除いて
パーキングエリアで
ソフトクリームの行列に並んでおり
発車ギリギリに飛び乗った浮橋は
補助席の最前列に陣取っていた
そこへ急ブレーキが
踏まれたものだから
ひとりフロントガラスを突き破って
運悪く車外へ飛び出て
打ち所も悪かったというわけ
一命は取り留めたものの
脳みそが小学校低学年レベルまで低下
(もともとそんなに良くないが)
さらには監督の太谷は
大型二種免許も持たずに
部費をちょろまかしたいがために
自分で大型バスを運転していた
あげく優勝の美酒といっては
一杯ひっかけていたというから
言語道断
ただその事実を知っているのは
酒の匂いを間近で感じ取っていた
浮橋だけである
よって監督太谷は
はしゃいだ浮橋が
高校生なのに大型バスを
運転していたと
虚偽の供述をして
そしてなぜか警察もそれを
鵜呑みにする始末
小学生になった浮橋は
一切の罪を被せられた
そういうわけ
なんだかとっても
気分の悪い話