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愛しい「かいぶつ」を抱きしめて

映画「怪物」を観てきました。

何十年、ただただ目の前のことだけ追いかけて生きるのに必死で、映画館に行こうなんて思うこともなかったなぁ。

人生の楽しみを、随分と放棄して生きてきたかもしれませんね笑。

そんなふうに不器用サンだから、この春退職して多少時間が出来たはずなのに、「やっと好きなことが出来る!」なんて発想もなく…。

ある日のこと娘から「映画でも観に行ったら?そうねぇ、例えば“怪物”なんていいんじゃない?」と言われてやっと「え、いいんですか?映画なんて行っても…」

一体誰の許可をもらおうとしているんでしょう?つくづく生きづらい自分を痛感します。

何はともあれ、娘から背中を押される形で何十年ぶりに夜の映画館へ。

そして勧められた通り、怪物…という、多分自分では選びそうにないタイトルのトコロへと進みました。

が、観てみるものですねぇ。すごい話でした。

もはや、せっかく持ち込んだポップコーンにもカフェラテにも手をつけることをすっかり忘れて引き込まれました。

色んな視点で描かれており、色んな解釈ができるわけですが、やっぱり私は長年「保健室の先生」だったから、あっという間に気持ちが現役時代に戻り、すっかり感情移入してしまいました。

子どもの視点と立場。
親の視点と立場。
教員の視点と立場。

誰もがそれぞれ何かしらを抱えて生きていて、当たり前だけどそれぞれが幸せになりたいと思っていて。
ただそれだけだろうに…。

人って、自分が見て経験して感じたことが全てだと信じこんで決めつけたり判断したり動いたりするんですよね…。

真実がどこにあるか、気づきもしないまま。
気づこうともしないまま。

さらに一旦動き出してしまうと、ふと立ち止まって見つめ直したり自らを振り返ったりするなどなかなか軌道修正できないのも世の常です。

また、往々にして自分の考えを守り通すために人を否定したり傷つけたりすることも。

時に、取り返しのつかないことになってしまったあとで初めてハッと気づく…それもまた世の常です。

大人でさえ生きづらいこの世の中。
自分を守り自分を保ち、願いを叶えることは簡単ではありません。

そんな大人の価値観が蠢く中、ラクに生きていられる子どもたちって、一体どのくらいいるのでしょう?

そもそも昔から、子どもって可愛くて、だけど困難でムズかしいものだと思うんです。

難しいのは、取り扱いがではなく、解釈するのが、です。

子ども心はいつだって誰だって純真なものです。が、その成長発達は決して前向き上向き一直線ではなく、壁にぶち当たったりつまずいたり間違ったりしながら、迷いや葛藤を重ねてやっとの思いで大人になっていくんですよね。

大人は、自分だってそうだったはずなのに、すっかり忘れ「良かれと思って」あるべき姿や進むべき道を声高らかに提案する…。それはじゅうぶん愛とも言うけれど。

映画の後半は、もう胸が締め付けられる気持ちになっていました。

私は保健室というある意味トクベツな場所に身を置いて、もがき苦しむたくさんの子どもたちとご一緒してきました。

不可解な行動。
理解しがたい言動。
自分の中に閉じこもる。
誰のことも寄せ付けない。
感情の交わることがない。
大事な人さえ遠ざける。
優しい子なのに攻撃性。
傷つけと、傷つきを繰り返す。

子どもですから、下手クソなのは当然です。
上手過ぎるのもまた、ヘンですし。

私たち大人が落ち着いて、大きな心で、包み込むように伴走するのは、口で言うほど簡単ではありません。

何かを守りきることは、神様でもない限り、何かを敵にまわしたり闘ったりすることさえ必要な時もあります。

それでも私は、ただただ子どもたちのしんどさの横にいて、ひとりじゃないよと感じさせたかった…そんなことを思いながら保健室で生きてたなぁ…。

なんだか気持ちは椅子から立ち上がり、スクリーンの中に自分の眼差しを置いているような気になっていました。

誰も、悪くない。
誰ひとり、悪くない。
誰もが、ただ普通に幸せでいたいだけなんだ。
たったそれだけのことが、なんて難しいんだろう…。

この問いかけがあまりにも重すぎて、最後のピアノ曲が終わっても、しばらく立ち上がることが出来ませんでした。

救いは、光輝く美しい景色を駆け抜ける子どもたちの姿と表情を描いたラストシーン。

そこには紛れもなく希望がありました。

私はもう、保健室の先生でもないし、子育てもすっかり終わりました。

今この映画に出会って突きつけられたテーマを、なかったことにはしたくない。

自分の人生の後半に、そしてあまりにも果てしなく広すぎる世の中に、それでも何とか生かしていきたいと、願いのような祈りのような気持ちでいる私です。








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