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映画『ハケンアニメ!』感想|“不幸だなんて誰にも呼ばせない”

2022年5月20日に公開された映画『ハケンアニメ!』を鑑賞してきた。

電車に乗り、さいたま新都心のコクーンシティ・MOVIXさいたまへと足を運んだ。気持ちの良い天気だったからか、コクーンシティは家族連れや恋人たちに溢れていた。

上映まで少し時間があったので、紀伊国屋書店で暇をつぶす。昔から本屋や図書館が好きだった。人間を遥かに凌ぐ数の本が存在している空間。その中には、自分を肯定してくれる“誰か”がいるのではないかと、いつも期待していた。

入場開始5分前になって、チケットを購入する。自動チケットカウンターには、すでに誰かが購入した席が灰色に表示されていて、私は両隣が空いていて、なおかつ周囲にあまり人がいない席「F-7」を選んで購入した。


映画『ハケンアニメ!』は辻村深月さんの同名小説を映画化したもの。新人アニメ監督の斎藤瞳(吉岡里帆)と天才アニメ監督の王子千晴(中村倫也)が、テレビアニメ業界で成功したアニメの称号・覇権(ハケン)をめぐって激しい争いを繰り広げていく、という内容だ。

世間からの評判や放送局からのプレッシャー、締切、スタッフ間の軋轢といった、物づくりの難しさやクリエイターが抱く苦悩が描かれるとともに、それでも好きなことを仕事にして、それに真摯に向き合うことって本当に素晴らしいことなんだと思わせてくれる作品だった。


作中、特に印象に残ったセリフがある。第1話公開を前に、監督2人が対談するシーンで、司会の女性が「現在はアニメが一般化して、普通の人にも受け入れられている」といった主旨の発言をして、中村倫也演じる王子が感情的になった時に発したセリフ。

リア充どもが、現実に彼氏彼女とのデートとセックスに励んでる横で、俺は一生自分が童貞だったらどうしようって不安で夜も眠れない中、数々のアニメキャラでオナニーして青春過ごしてきたんだよ。だけど、ベルダンディーや草薙素子を知ってる俺の人生を不幸だなんて誰にも呼ばせない

引用:映画「ハケンアニメ!」

私は高校を中途退学し、17歳からフリーターとして生きてきた。学生時代の友人なんていない。バイト先で出会った同年代の人々は、“普通”に高校や大学に通って、“普通”に就活で苦労して、“普通”に就職して、“普通”に社会人をしている。“普通”に恋人がいて、“普通”に結婚していく。

私にはそんな“普通”が、1つもない。


昨年の秋、1年と10ヶ月交際していた恋人から「“普通”の人になってほしい。“普通”がいい」と言われた。ほどなくして、私は彼女から別れを告げられた。

みんなが当たり前に経験してきたことを、私は経験していない。私は“普通”じゃない。そもそも“普通”ってものが何なのか分からない。いつからか、私は自分の人生に後ろめたさを感じるようになっていた。


俺の人生を不幸だなんて誰にも呼ばせない

中村倫也演じる王子の鋭く荒々しい眼光に釘付けになる。涙がこみ上げてくるのに気が付く。ああ、私は、“普通”じゃない自分を自分で肯定したかったんだ。誰にも肯定してもらえなくても、こんなふうに、自分を自分で肯定してあげるべきだったんだ。

私は泣いた。


“みんな”とは違う。“普通”とは違う。他人が当たり前にできることを、自分はできない。それでも、自分は不幸なんかじゃないと、思ってもいいのだ。

どうしようもない生活はつづく。自分が情けなく思える時だって幾度となく訪れるだろう。それでもこれから私は、そんな自分を肯定して生きていきたい。


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