32歳のぼくが、妻のひとことで滝行に挑み、寒さに震えながらも心が軽くなった理由
「ねえ、滝行行かへん?」
7月が終わろうとする頃の夜、妻から突然こんな言葉をかけられた。
「え、いいじゃん行こうや」と、ぼくは即答。迷う余地なんてなかった。なぜなら、ぼくは“体験すること”が大好きだからだ。
そうと決まれば話は早い。
ふたりで都内近郊の滝行スポットを調べ、写真やレビューを参考にして直感で目的地を決定。選んだのは「九頭龍の滝」、関東でも知られた滝行道場だという。早速オンラインで申し込み、滝行の日は9月上旬に決まった。
そして迎えた当日。ここからは、滝行の一部始終を振り返っていこう。
滝行までの準備と道のり
滝行の日が近づき、行き方を調べると、都内から片道3時間もかかることが判明。電車で2時間、バスで1時間。その道のりに少し気持ちが萎えそうになったが、準備を整え、いざ出発。
当日の朝、家を出発。電車とバスを乗り継ぎ、武蔵五日市駅を経て、山奥の終点「数馬」に到着した頃には、すでに移動だけで約3時間経過していた。開けた自然の景色と涼しい空気に癒されながら、集合地点の九頭龍神社を目指して歩く。
九頭龍神社でのお参り
集合地点に着くと、神社の神聖な雰囲気に思わず言葉が漏れた。
「え、めっちゃ好き。」
木々の隙間から差し込む光と、静寂の中にある神社が、とても神秘的だった。ここで簡単な説明を受け、参加者の約10人全員でお参りをした。
いよいよ滝へ
お参りの後は着替え。男性はふんどし、女性は白い行衣に着替えるのだが、ここで早速イベント感が漂う。
男性は僕含めて2人だったのだが、初対面にも関わらず「あれ、これどう着けるんですかね?」とか「これ落ちそうですよね…」「え、何回か滝行の経験あるんですか!?」など、軽い雑談が生まれ、自然と緊張がほぐれていった。
ふんどし姿の自分を見るのは2回目で、正直恥ずかしい。(余談ですが、1回目は小学生の時の相撲大会のときです)
こういう時は「やるからには楽しもう!」と気持ちを切り替えられるのがぼくの良いところだ。
全員が準備を整えていざ滝へ。
滝は一般道路の脇にある林道を5分ほど進んだ場所に見えた。途中、ちょっとした橋を渡ると「ゴーーー」と音を立てる滝が見えてきた。高さ10メートルはある滝の水の勢いに圧倒されながら、ワクワク感と少しの緊張感を胸に滝行のスタート地点へ向かった。
滝行1回目
まずは川に浸かるところから始まる。水温は想像以上に冷たく、痛いほどだった。滝行前の禊の一環で、肩まで1分浸かるのだが、サウナの水風呂のように徐々に慣れることはなく、常に冷たさが襲ってくる。
手足がじんじんと麻痺する感覚が続き、全身が冷たさに包まれた状態で滝行への気持ちを整える。
正直、滝行よりもこの禊がキツかった。とにかく冷たい、痛い。
その後、滝に打たれる初めての体験へ。滝の水が頭や肩に当たる衝撃は、まるで冷水のハンマーのようで、寒さと痛さで思考が停止した。裸足で岩肌に立つのだが、足が持っていかれないように必死だった。
滝行2回目
滝行が終わり、住職さんが「2回目は〜〜」といった説明をしはじめた。
どうやら滝行は2回あるらしい。「1回じゃないんか…」と、少し気が重くなったのを覚えている。しかし、ここまで来たらやるしかない。
2回目は、住職さんがお経を唱えている間、滝に打たれるというもの。1回目の約30秒に対し、2回目は1分以上の長丁場。1回目を終えて体が冷え切った状態で挑む滝行は、まさに自分との戦いだった。
滝の勢いがさらに増しているように感じる中、全身に叩きつけられる水の衝撃は、冷たさが痛みを超えて「麻痺」に近い感覚。それでも「ここで諦めたら自分に負ける」と思い、必死に耐えた。
お経を読み終わられた時の安堵感は、なかなか味わうことのない解放感で本当にホッとした。
滝行後の銭湯と気づき
実は2回目を終えた後、住職さんが「物足りない人は、追加で好きなだけ打たれてください」と言ってくれたのだが、ぼくにとっては十分すぎた。
滝行を終え着替えを済ませ、住職さんのお仲間が車で近くの銭湯に送ってくださった。熱い湯に浸かり、露天風呂から眺めた季節外れの赤とんぼに、ぼんやりと考えた。
「自分の好きなように、やりたいことをして生きてもいいのかもしれない。」
ふと、そんな考えが浮かんだ。
心が軽くなった理由
滝行を通して感じたのは、「やらなければならない」というプレッシャーから少し解放された自分だった。これまで「仕事だから逃げるな」「もっと頑張らなければ」と自分を追い込んでいたが、滝行を通じて「好きなように生きていいんだよ」と言われた気がした。
都内から片道3時間は決して気軽には行けないけれど、滝行にはそれだけの価値があったと思う。
僕自身が感じたことなので、滝行体験のお話はこれくらいで留めるが、少しでも気になった人はぜひ行ってほしい。その後、ぜひ僕とあーだこーだ滝行の話をしてほしい。
興味がある人は、来年の夏(秋口がいいと思う)にでも挑戦してみてはいかがでしょうか?