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#8 DeepTech編 紫外線を用いた水処理

こんにちは、今回は紫外線を用いた水処理についての基本的な背景・実施されている研究について簡単に説明したいと思います。

<目次>
Q1.なぜ紫外線消毒が必要か?
Q2.紫外線処理がされる仕組みはどのようであるか?
Q3.現在どのような例で実用化されているか?
Q4.現在どのような研究がなされているか?
感想と考察


Q1.なぜ紫外線消毒が必要であるか?

キーワード 塩素消毒・クリプトスポリジウム・不活化

A1.水をきれいにする塩素消毒や濾過といった他の方法では除去できない有害物質を水から取り除くためです。
有害物質の例として、クリプトスポリジウムが挙げられます。クリプトスポリジウムは最も著名な病原菌の一つで、水溶性の下痢、腹痛、嘔吐、発熱が主な症状として発現します。クリプトスポリジウムは塩素消毒では対処できない原虫です。
感染事例としては1984年にアメリカのウィスコンシン州ミルウォーキーで人口160万人に給水する市営水道がクリプトスポリジウムで汚染され,2週間で40万3千人が発症し,4千人が入院し,1995年末までに約400人が死亡したといわれている事例があります。また、1996年には埼玉県越生町の一割程度の住民が感染したという事例があります。


(出典)
クリプトスポリジウムhttps://www.fukushihoken.metro.tokyo.lg.jp/shokuhin/micro/crypto.html

越生町の事例
https://www.niph.go.jp/h-crisis/archives/83133/

Q2.紫外線処理がされる仕組みはどのようであるか?

キーワード 不活化・DO・有機物・白金ランプ・UV-LED

A2.水中に存在する菌を不活化させることと、水中に存在する有機物を酸化分解
紫外線とは100~380nmの波長の光のことを指します。この中でも、253.7nmの波長の光は、細菌やウイルス等の生命維持と遺伝子情報の伝達に必要なDNAに吸収されやすく、菌類の増殖を停止させます。
また、水中に存在する有機物を酸化分解させることができます。水処理の業界では、水の中に溶けている酸素の量(DO:Dissolved Oxygen)が多いほど水が汚染されていないという考え方をするため、酸素を取り込む有機物が多いことは水がより汚染されていることを示しています。

紫外線を当てる方法としては、水銀ランプとUV-LED を用いた2通りの方法があります。
従来は水銀ランプを用いた方法で不活化が実施されていました。水銀ランプは一度に大容量の水を処理できるというメリットがある代わりに、消費電力が大きい、ランプを立ち上げるのに時間がかかる、耐用年数が短い、壊れた時に危険な物質である水銀が発生してしまうというデメリットがあります。
一方で近年研究が進んでいるLEDを用いた方法は処理できる水の容量は小さいですが、消費電力が小さく、電源を入れたり消したりするラグタイムが少なく、耐用年数が長く、有害物質が出ないという長所があります。
(出典)
不活化処理の仕組み

https://www.metawater.co.jp/solution/product/water/uv_disinfection/

          図1 紫外線による不活化処理


https://puric.organo.co.jp/column/%E6%B0%B4%E5%87%A6%E7%90%86%E7%9F%A5%E8%AD%98%E3%82%92%E5%AD%A6%E3%81%BC%E3%81%86%EF%BC%81%EF%BD%9E%E7%B4%AB%E5%A4%96%E7%B7%9A%E7%B7%A8%EF%BC%881%EF%BC%89%EF%BD%9E/


Q3.現在どのような例で実用化されているか?

キーワード 高度処理・再生水・下水処理

A3.紫外線処理は浄水処理、下水処理において他の処理方法との組み合わせで使用されています。現状ではこれらの処理場では多くの容量を処理できる水銀ランプを用いた処理がなされていますが、水処理機器メーカー大手であるメタウォーターはUV-LEDを大規模な処理場でも活用しようというプロジェクトを実施しています。

https://www.metawater.co.jp/zokuzoku/continue/interview13.html


Q4.現在どのような研究がなされているか?

キーワード 災害時の活用・途上国での利用

A4.一つ目の研究としては、途上国における水処理という研究事例があります。「紫外線 水処理 研究」でGoogle検索をかけると真っ先に出てくるのが、東京大学大学院工学系研究科都市工学専攻の小熊准教授です。(自分の研究室の教官で、22年度の学内の優秀研究者賞を受賞した優秀な先生です)
小熊准教授は従来の水銀ランプをの代わりにLEDを使った装置を開発していて、水銀ランプとの置き換えとは考えずLEDの強みを活かした使い方を研究しています。具体的には、LEDは水銀を使わないため、万が一壊れても水銀が入り込みません。小サイズでもOK。ウォームアップ不要でON/OFを繰り返しても劣化しにくいというメリットがあります。この長所は途上国や山間過疎地での活用に適しています。

なぜなら、途上国では屋上貯水槽内で菌が繁殖し、水の衛生を担保できない場所も多いです。水槽の管理は自己責任の場合が多く、山間過疎地に住む高齢者には、塩素の補充が極めて大変だという話もあります。超寿命のLED消毒装置なら、もともと使っているポンプの電気で動かすことができます。

また、この研究は技術的な問題だけではなくいかにコミュニティの人々が活用できるかという段取りの部分も非常に重要であり、研究の社会実装の難しさとやりがいを感じると先生はおっしゃっていました。

(出典)

https://30th.rcast.u-tokyo.ac.jp/news/20170930_1.html

またデバイス側の観点からの研究も進んでいます。
名城大学の赤﨑勇教授、名古屋大学の天野浩教授、日機装が研究している「深紫外線LED」の技術です。深紫外線LEDは、従来のLED光源では得られない波長の短い光を作り出すことで、殺菌や空気浄化などの効果が得られます。
課題としては水処理能力(容量)で日機装は従来のLEDだと2L/minの処理量のところを50〜100L/minにスケールアップする部分にあったそうです。

(出典)https://www.nikkiso.co.jp/technology/project/duv-led.html

感想と考察

最も大きな感想は、「水分野の研究の社会実装にはたくさんのステークホルダーの連携が必要になる」ことです。物理のバックグラウンドを持ったLEDメーカー、生物系の知識と水の知識を持った環境工学者、自治体、住民等々挙げればキリがないと思います。
また、ステークホルダーが多いからこそやはり大型デバイスでの起業は難しそうという印象も受けました。スケールアップは大企業の方が強いという理由です。やはり小型の装置や設計のみのビジネス等が良いのかという観点も出てきます。次回は水関係の装置を販売しているスタートアップがMVPや商品をどう作っているのかという点に注目して記事を書いてみたいと思います。

長くなってしまいましたが、お読みいただきありがとうございました。



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