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予備知識ゼロで『ソウルの春』を鑑賞し、だまされろ!【映画評:ソウルの春】

こんにちは。
本記事に目を止めて下さりありがとうございます。
まず最初に、皆さまに注意事項がございます。

本記事は、映画『ソウルの春』のレビュー記事になるのですが、

題名にて「予備知識ゼロで鑑賞」を勧めておきながら、
以下ネタバレ全開記事となっています。


本記事に興味をもっていただいて、大変、たいへん有難いのですが、
まだ鑑賞されていない方は、「この映画は予備知識ゼロで見る事こそ至高」
という情報だけをインプットいただき、
映画館へ急いでぐことをおススメいたします……..。
ではいきましょう。


1.『ソウルの春』概要


『ソウルの春』は2024年8月23日日本公開。
実話をもとにした社会派エンターテイメントです。
以下あらすじ。(映画公式サイトより)

1979年10月26日、独裁者とも言われた大韓民国大統領が、自らの側近に暗殺された。国中に衝撃が走るとともに、民主化を期待する国民の声は日に日に高まってゆく。しかし、暗殺事件の合同捜査本部長に就任したチョン・ドゥグァン保安司令官(ファン・ジョンミン)は、陸軍内の秘密組織“ハナ会”の将校たちを率い、新たな独裁者として君臨すべく、同年12月12日にクーデターを決行する。一方、高潔な軍人として知られる首都警備司令官イ・テシン(チョン・ウソン)は、部下の中にハナ会のメンバーが潜む圧倒的不利な状況の中、自らの軍人としての信念に基づき“反逆者”チョン・ドゥグァンの暴走を食い止めるべく立ち上がる。

韓国では、最終的には国民の4人に1人が劇場に足を運び、『パラサイト 半地下の家族』を超える大ヒットを記録。
その実績に違わぬ、まさに息をつかせぬ面白さでした。

この手の実話を題材にした作品は登場人物が多く、
背景描写が複雑で難しい場合が多いのですが、
本作は予備知識なしでも構造が理解でき楽しめ、むしろ、
予備知識を入れずに見た方が楽しめるのではないかと思います。

理由は
「制作陣の掌で踊らされている感覚がとても心地よい映画だから」
です。
何を言っているのかさっぱり分からない方もいるかと思いますが、
次章から詳しく書いていきます。
キーワードは3つの「だまされた」です。

2.『ソウルの春』3つ「だまされた」

(以下、ネタバレありとなりますのでご注意ください。)

①正義が勝つと思うじゃん….

本作は対照的な2人の人物の攻防を追いながら進行します。
保安司令官のチョン・ドゥグァン(演:ファン・ジョンミン)


首都警備司令官のイ・テシン(演:チョン・ウソン)

以上2名です。

独裁者の暗殺によって韓国中で民主化の機運が高まっていた時代。
保安司令官・大統領暗殺の捜査責任者を兼任し、韓国軍内で強い影響力を持つチョン・ドゥグァンは、軍事クーデターを起こして自らの独裁政権を樹立しようと画策します。
彼は口から先に生まれたような人物で、言葉巧みにクーデターを率いていきます。
また、大統領暗殺の捜査と称し反乱分子の逮捕拷問を行ったり、ソウルの通信情報網を不当に掌握したりとあらゆる汚い手を使って自らの野望を達成しようとします。
本作中では明らかに(少なくとも民主主義を理念としている日本という国に生きる私にとっては)ヒールとして描かれている人物です。

対して、イ・テシンは首都を防衛する司令官として、その反乱を防ごうと尽力します。
彼は国と国民を守るという本来の使命に忠実な高潔な軍人として描かれ、反乱軍に最後まで立ち向かいます。また、チョン・ドゥグァンとは異なり、妻との食事シーンや信頼関係を示す描写もありました。

このように、本作は圧倒的にイ・テシン側に感情移入しやすいように
作られています。
(演じるチョン・ウソンもめちゃくちゃイケメンですしね笑)
かく言う私もイ・テシンの気高い人柄に魅了され、引き込まれていきました。

しかし、息詰まる攻防の末、勝利したのはヒールであるはずのチョン・ドゥグァンでした。
私はイ・テシンへの感情移入を多分にしていたこと、
イ・テシン側の優勢描写もあいまって、自然と彼への勝利の希望、
勝ってほしいという祈りにも近い願望を抱いていたのですが、
最後に打ち砕かれました。

本当にストーリーが巧くてやられました。
これが1つ目の「だまされた」です。

②春はまだ訪れない。

そもそもソウルの春とは

ソウルの春
朴正煕大統領暗殺に端を発し、国民の民主化ムードが隆盛した政治的過渡期を、チェコスロバキアの「プラハの春」になぞらえて呼称したもの。

『ソウルの春』公式サイトより。

プラハの春=民主化運動という程度の予備知識は持っていた私は、
映画タイトル「ソウルの春」から民主化に向かうための闘いという連想をしながら鑑賞していました。

また、本作は1979年12月12日の韓国ソウルが主要な舞台。
季節は冬で、雪が降りしきり、映画を一層ドラマチックに演出しています。

冬を経て春へ。民主化に向かっていくのか、、となんとなく思っていたら、
勝ったのはチョン・ドゥグァン。独裁政治に逆戻り。
(韓国が真に民主化を達成するのは1987年を待たねばなりません。)

映画の終盤、反乱に関わったメンバーが、その後
韓国政治の要職についたという説明が勇壮な音楽をバックになされます。
まるで正義のヒーローが勝った後のエピローグのように。

モヤモヤした気持ちを抱きつつも、
その悲哀が、つきつけられた「勝てば官軍」というこの世の残酷な真実が、
確実に私の心に爪痕を残しました。
これが2つ目の「だまされた」です。

③歴史モノをあえて知識ゼロで見るということ

3つ目の「だまされた」はとても個人的なことです。

私自身歴史がとても好きで、歴史を題材にした映画やドラマをよく鑑賞します。
歴史を題材とした作品の魅力は「常に新しい」ということ。
一つの歴史的事実に対して、作品によって人物の描き方が違ったり、
描き方の切り口が違う。
結末は変わらないですが、作品によって結末にたどり着く過程が違うのです。
いや、結末が変わらないからこそ、新しい考え方や気づきを与えてくれる。
これは歴史モノならではだと思います。

私は歴史モノを見る際は作品を最大限楽しむため、
なるべく予備知識を入れて見るようにしています。

ただ、今作については違いました。
私は韓国史については疎く、歴史モノであることを認識しつつも、
「『パラサイト 半地下の家族』を超える韓国歴代級大ヒット」
という謳い文句に惹かれて、予備知識を入れずに鑑賞しました。

予備知識や凝り固まった考え方がない分、
物語がより新鮮な気づきや面白さとして体に入ってきました。
映画の内容をいったんまるごと受け入れて再考する面白さ。
そんな歴史モノの新しい楽しみ方を教えてもらいました。

3.「歴史映画に『だまされる』必要性」26歳の私が考えたこと

ここまで、「だます」というキーワードを出していますが、
このキーワードに日本の近現代史教育の転換の可能性を感じました。
最後にいろいろと付随して考えたことを書きたいと思います。

本作は1979年12月12日に実際に韓国で起きた
「粛軍クーデター」或いは「12.12軍事反乱」を題材につくられています。
韓国においてこの事件は、成功したにも関わらず、
「革命」ではなく「クーデター・反乱」と呼ばれ、「韓国現代史の汚点」
とされています。

その歴史的事実をエンターテイメント化し、大ヒットしたことで、
韓国国内で、同事件を経験していない若い世代も、
興味をもって学ぶきっかけになったことでしょう。

では日本はどうでしょうか。
例えば今年で26歳の私が受けた戦争教育について。
記憶に強く残っているのは高校生で体験した沖縄での平和学習。
戦争体験者の方から戦時中の体験談を聞いたり、
ひめゆりの塔やガマの見学をしました。
今考えると、当時の凄惨な状況を肌身で学ばせ、
戦争=恐怖=二度と繰り返してはならない
という概念を植え付けられたような体験でした。

しかし、このような教育が、必ずしも「その先」を考えるきっかけになっているでしょうか。
上記のような学びは間違いなく必要ですし、私にとって
生きる上で重要な体験になったのは事実ですが、
戦争=恐怖の対象という気づきを与えるにとどまり、
そこで思考が止まってしまってる人が多い気がします。

戦争教育は、戦争の原因究明や、再発防止策を検討したりして未来に繋げることをゴールにすべきで、進んで学ぶためには事象に対しての「興味」に繋げないと教育としては片手落ちです。

そのために、「歴史的事実のエンターテイメント化」は有効な手段であると思います。
歴史を良質なエンターテイメント化して、多くの人々に鑑賞させる。
結果、知らず知らずのうちに歴史に触れることになり、
興味を抱かせ、考えるきっかけにする。
現代史は当事者が存命である場合もあり
ことさらタブー視されることが多く難しいのですが、
映画『ソウルの春』の成功に対して、
私たち日本人が学ぶべきことも多いはずです。

日本でも今後『ソウルの春』のようなエンターテイメントが
多く生まれることを期待します。

以上、長々とお読みいただきありがとうございました。

同じく韓国現代史を題材にした、
『南山の部長たち』や『タクシー運転手 約束は海を越えて』
も鑑賞しましたので、別途レビューしたいと思います。





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