第36話:孤独
夜が寂しいと、ぶっこちゃんは言う。
寝られへんと、ぶっこちゃんは言う。
年をとるということは、孤独が増える。寂しさ、つまり負の感情に支配される。それは、幸福でないということ。
しのぶはぶっこちゃんを笑わせたいと思っている。少しでも、小さな幸福を味あわせたいと。だが……
しのぶは無力を感じていた。同じ家に暮らしていても「寂しい」と言うぶっこちゃんに対して、どうすれば良いのか分からないでいる。ぶっこちゃんはもう、しのぶのことは考えていないように見える。しのぶだけではない、他者を理解するということが難しくなってきているようだ。ぶっこちゃんはぶっこちゃん自身の孤独を埋めたくて仕方がない。
ぶっこちゃんにとって幸福とは、人が大勢で居ることだと信じてやまない。幼少からそうであったように。
しのぶとは、時代が異なる。価値観も異なる。
しのぶはぶっこちゃんを幸福にしたいと思うが、それが出来ない。夜になると特に寂しさを感じるらしいが、しのぶが傍にいることを求めてはいない。ただ、寂しくなるのだろう。
しのぶはただ、自室で布団に入って祈るしかない。
まるで、清を思う「ぼっちゃん」のようだ。ぼっちゃんは手紙を書くのを断念する。こうして思っていれば伝わるだろうと決め込んだのだ。
しのぶは少し、ぼっちゃんに救われたが、救われない部分は、ぼっちゃんを羨んだ。
ぶっこちゃんには娯楽が無い。
いや、ひとつある。ラジオをいつも聞いている。寂しさをまぎらわしたいのだろう。何を言っているのか分からないラジオを、いつも聞いている。
ラジオもテレビも、ぶっこちゃんの耳には届けど、頭には入ってこない。 何を喋っているのか、てんで分からないでいる。が、ぶっこちゃんはぶっこちゃんなりに間違って解釈して納得しているから、それはそれで良いのだろう。
でも、もしも年配者に配慮したテレビ関係者がいるなら、老人のための番組をこしらえてほしいなと思ってみたりする。ゆっくり、わかりやすく喋って、大きく分かりやすい字幕をつけて。
見て分かる、笑える番組を。
しのぶは一人で居てもパソコンがあって、スマホがあって、テレビもある。SNSで夫や友だちともすぐ繋がる。アンネみたく書くこともできる。十分に、些細な幸福を感じられる。
ぶっこちゃんにも幸福を。
どうか、毎日笑える生活を与えてほしい。
神様。