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3年休職の社員が目指す「ダイバーシティ」な職場「インクルージョン」で誰もが活躍する環境へ

年末に東洋経済オンラインに寄稿しました。復職後リアルに感じ考えたことです。

「まだまだ旅の途中ということだな……」

白血病を発症したアメリカ人女性を主人公とした小説『Between Two Kingdoms』を読み終えたときの感想だった。主人公が白血病を発症し、治療を受けた過程、そして治療後の生活について、ていねいに描かれていた。同じ病気を経験した者として、つらく厳しい治療を乗り越えた後、どのように新たな生活を組み立てていくかを興味深く、そして共感しながら読み進んだ。

急性リンパ性白血病を発症して丸3年が経ったタイミングに、闘病経験を書いた『経営コンサルタントでワーキングマザーの私がガンにかかったら』を出版した。


執筆のタイミングは、治療を終えて復職する直前。子供2人を育てる生活を普通にこなせるだけの体力が戻り、親しい友達に囲まれ満たされた生活を送っていると感じていたときだった。

その後、3年ぶりに以前と同じ職場に復職してみたら、のんびり過ごしていた生活では感じなかった、もやもやする経験をたくさんした(そのときの思いは、以前の記事『3年休職から復帰した経営コンサルのサバイブ術』や『「最近の若手』への違和感で自らの価値に気づいた」で詳細を説明している)。復職して丸1年が経った今、あらためて感じたのが、「病気を発症して丸4年の今でも、自分は新しい生活やキャリア構築の旅の途中である」ということだ。


長期求職者を雇用するメリット

病気をする前と後では人生観も変わったし、生活スタイルは特に大きく変化した。キャリアについても同様だ。職場は同じでも、タスクも変われば自分ができること・したいことも変わった。病気前と後で同じ職場で仕事をしている方の多くも、実際にはさまざまな変化を感じていると思う。白血病治療のため3年休職し、その前とは内面が変わった私を雇用するメリットはあるのだろうか? そう問われるとNO側にフラッグが振れるような気がする。なぜなら、病気発症前に会社が私に求めていたことと、3年間の闘病・療養を経た私が今できること・したいことにはギャップがあると思うからだ。

ただ、復職して1年を経て、ダイバーシティ&インクルージョン(以下、D&I)をより一層推進しようとしている組織が、私のような傷病休職した社員を受け入れることによるプラス効果はあると実感している。ではなぜ私が「プラス効果」があると考えるようになったのか、説明しようと思う。

病気になり治療のため休職した人材とは、どんな人なのか? ここでは私のように、思いがけず一定期間入院治療が必要な病気になった人を想定してみよう。

明確なのは、病気治療の最中も人生は続いており、仕事は休んでいても新たな経験を積んでいるということだ。病気になったことで人生に対する価値観が変わり、発想の転換や視野の広がりを認識する機会に恵まれることがある。実際にがん患者が、がんにかかってから得られたものをキャンサーギフトと言う。


高校留学と治療の日々の共通点

私も白血病治療中に語学等の勉強に励む猛者とも出会ったが、治療期間中に新たな知識を身につけた人もいるだろう。休職中に出会いに恵まれ新たなネットワークを構築している人もいる。私の場合はママ友とのネットワーク充実が著しかったが、ママ友にもいろいろな人物がいるもので大学教授、投資会社の責任者、音楽家等との出会いがあった。

また、体力回復期に始めたがん患者支援活動を通じて、新たな世界も広がった。がんの治療と仕事の両立支援に関する講習を受け、製薬会社での社内講演に登壇もさせていただき、さらに白血病闘病に関するインタビューを「がんノート」のユーチューブチャンネルで公開させていただいた。

こういった活動を通じて、がん患者とその家族を支援する複数のNPOのメンバー、元看護師で起業を検討している女性、製薬会社の広報担当者、アメリカのがん治療実績で知られている病院の医師等、病気をする前にはまったく接することのなかった多くの人達との出会いがあり、そのネットワークは今も拡大中だ。


ある知人から、「山添さんの病気治療中に得た経験は、高校時代に海外留学した人の経験と似ていますね」と言われたことがあった。高校時代の留学は大学時代の留学とは違い学業的には明確な目的はなく、知らない土地で友達がゼロの状態から生活をスタートし、新たな経験を積む。そんな生活のなかで、今後の人生の進む道を切り開くべくもがき続ける日々を過ごす高校留学と、私の白血病治療の経験が重なると言う。

私も15~18歳まで単身アメリカ、オレゴン州に留学していた経験がある。たしかに新たな経験の連続から自分自身の進む道を見つけ出した当時の経験は、治療と向き合った日々と似ているかもしれないと思った。


職場復帰のためのTIPSづくり

30年前に単身留学したときも、他の学生とは違うユニークな経験を積んだという実感があった。白血病治療を乗り越え復職を果たした今もがん治療の経験は他の同僚よりも独自性の高いものとなり得ると感じており、ダイバーシティの底上げに貢献できているはずだと考えるようになった。

多様な人材を有した組織の重要性を経営方針に掲げる企業は、女性や海外出身者の採用について語ることが多いが、私のような人生の回り道をたどった社員を受け入れることもダイバーシティを高めたいとの思いを示すことになるのではないだろうか。

3年の休職は長いブランクではあるが、仕事を休むのは病気になった人ばかりではない。出産のタイミングに多くの女性が休みを取るし、男性も育児のため休職する人が増えている。休みを経て戻った人材が活躍できる職場環境づくりは企業にとって喫緊の課題である。また転職をした後に戻ってきた人材など、業務上の実績があり社内人的ネットワークを有する人を受けいれるほうが、新たに中途採用で人を採るよりもコストベネフィットがある場合も多いだろう。自身の経験から、長期休職者が戻りやすい職場環境づくりや受け入れの際のTIPSの言語化を進めていきたいと考えている。


まず、病気・治療を隠すのをやめる

私の場合、復職する前に闘病エッセイを出版しているので、白血病になったことを社内の多くの人が知っている。がん患者さんの支援をライフワークにしたいという意志があることもあり、復職後には社内で治療中の体験談をシェアさせていただくミーティングやがん治療と仕事の両立に関するセミナーを開催させてもらった。こういった活動の狙いの1つは社内で病気治療をしながら仕事をしている人がストレスをためない環境づくりへの貢献だ。

日本企業では「病気になること=弱みを見せること」と認識されているようで、多くの社員がオープンにせずに治療と仕事の両立を行っていると耳にする。人生100年時代と言われて久しいが、今後も在職している最中に病気になる人は増えるだろう。私のように大病をしたことを遠慮なく発言していくことで、現在治療を受けていることが話しやすくなり、周りがより気遣いや配慮しやすい環境がつくれたらと願っている。

社員がお互いの違いを認めたうえで協働できる職場にするには、多様な人材の活躍を後押しする「インクルージョン」の推進が必要だ。ライフステージの違いも認識し、尊重し合いながら皆が生き生きと働くために、互いへの「無関心さ」を捨て去り社員間のコミュニケーションを活性化することが求められる。

今後も病気治療・休職・復職の際に感じたことなどを発信することで、多くの方に、病気になっても人生は続くことを理解いただき、また関心を持っていただけるよう、治療と仕事の両立における支援活動を続けていきたいと考えている。

休職の経験からどんな価値が創れるのか

さて、「旅の途中」の話に戻ろう。私はサステナビリティ経営に関わるコンサルタントとして働いているが、知識の多くはアップデートしないと使えないし、プロジェクトの内容・方法も変わってきていると実感している。そんな状況を痛感し、いきついたのが「新しいことを学び、新しい仕事をつくろう」という発想だ。社内でも社外でも貪欲に人と会い、ディスカッションをする日々。未経験なことにも手を挙げるチャレンジ精神も旺盛になった。D&Iに関する有識者との座談会に参加したり、昔なら断っていたであろうコーポレートイメージ映像の撮影にも参加した。

高校でアメリカ留学した際も、わざわざ親元を離れて単身留学した意義を証明するために、いろいろともがいたことを思い出す。「治療はユニークな経験かもしれないけど、それでどんな価値が創れるようになったの?」という問いかけに一生懸命答えを出したいと日々考えている。それが今の私の状況だ。まだまだ続く旅の到着地はまだ見えてこない。

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