⑫YUKARI ジャズ・フルーティスト No.10 民族音楽への傾倒
音楽家というのは、つまるところ「媒体」だと思う。
言語の世界でも多種多様なボキャブラリーがあれば、
その分思いのままに語れる。
最初はただ好きで聴いていたが、今思うと、
自分の音楽でのボキャブラリーを増やすために、
あらゆる民族音楽を学んでいたような気がする。
「音楽は、昔は『祭』や『祈祷』の場で使われていました。
時代ともに、洗練されていったクラッシックやJAZZとは異なり、
メッセージ性が高く、土着的な民族音楽に強く惹かれました。
『神と繋がりたい』という強い思いが込められていて、
演奏していても、強いウオッカのようなお酒を飲んでしまったように
刺激的で楽しいと感じたのです。」
同じJAZZといっても、アフリカの黒人が演奏すれば、
アフリカの音楽の影響が出るし、
北欧の人が演奏すれば、
独特の物憂げな色合いが出てくる。
「JAZZを掘っていくとそのミュージシャンの持っているオリジンや文化が
そのままが色濃く出てくるので、おのずといろいろな世界に目が向きました。」
ラテン・ジャズやブラジル・サウンドは大学の頃から意図的に聴いていた。
大学の図書館をはじめ、当時安価でCDが手に入ったディスクユニオンで
食指が動くままに選んで聴いてみた。
どこに旅しても手に入れられるものが異なる。
NYでも旅先でも
手当たり次第に民族音楽を聴いた。
民族音楽に関する書籍や資料もよく読んだ。
興味の対象は、
アフリカ、東欧、南欧、特にギリシア・・・
とどまることをしらない。
ノスタルジックであったり、
土着的な祈りのリズムであったり、
癒される旋律に惹かれた。
時には、楽器そのものの音に探求心を刺激された。
日本では、特に沖縄の土地の持つ癒しのエネルギーに魅了され、
一時期毎年訪れていた。
沖縄のミュージシャンとのコラボレーションで、コンサートも開催した。
・北インド音楽が開いてくれた世界
ここ10年くらいは、北インド音楽に心酔している。
マンハッタン音楽院時代に、インド音楽の授業が評判が良かったので
興味本位で覗いてみた。
タブラという太鼓に興味を持ったのが
聴き始めたきっかけだったが、
演奏家同士のやりとりも全く聴こえてこず、
JAZZよりも難解で、何拍子かも捉えられずにいた。
ただ、竹のフルートのバンスリの音色と、
タブラのリズムが好きで聴いていた。
「音楽家に求められる要素の一つで、
曲の詳細まで聞き取れることをBig Earと言います。
ある時思い立って、Big Earを鍛えるメソッドで、
一つの楽器の音だけに集中して聴いてみました。
楽曲全体でなく、タブラのクレイジーなリズムだけに集中して曲を聴いてみたら、
突然理解できて、うれしくて笑いが止まらくなりました」
目の前でミュージシャンが演奏しているのを見ているかのように、
急に理解できたのだ。
それまで、西洋音楽で教育を受けてきた自分には
馴染まないインド音楽の東洋的な音の作り方に
ある種のカルチャー・ショックを受けていた。
インド音楽は、例えば、ド・レ・ミという音階のドとレの間にいくつも音を挟み、
音と音の間で会話して、心情を表現していく。
が、ある時、同じ東洋人として
自分たちの音の作り方に共通する点があることに気が付いたのだ。
アフリカ人が作ったJAZZの世界では自分はどこまで行っても異邦人だった。
自分らしさをどう打ち出していったらいいかは常に課題だった。
北インド音楽も、異文化であることは変わりないのだが、
日本の雅楽にもみられる音と音の間に会話を存在させる感性を発見でき、
自分のDNAにも組み込まれていたその哲学的・文化的な要素を
今度はJAZZの中で自分の音楽的ボキャブラリーに取り入れられたら
どんなに素敵だろう、と思えた。
難解で、異質に感じていたが、
結果的にその気付きによって、
自分の引き出しの一つとして加えられ、
JAZZミュージシャンとしての可能性を見出すことができた。
音楽家としてのアイデンティティの一部にもなった。
観点を変えて言うと、
様々な要素を組み合わせて、新しい別のものを創り出すことができるのが、
日本人の感性と言えるのかもしれない。
フルートやアルゴーザ
(インドのリコーダーのような二連の笛。蛇使いが吹いている笛と言うとイメージしやすい)
のような気鳴楽器はとりわけ心の質を表す。
その音色は人間の声に近く、生命そのものである呼吸を用いて
演奏されるからだと言われている。
打楽器は心の奥底を刺激し高揚感を与える効果があり、
技法を駆使し、心情を映し出す繊細さや音楽の深みを加えていく。
太古の昔の形を多く残したまま引き継がれている民族音楽は、
人間の深部に強く響く。
自分の音楽に取り入れたいと突き詰めていけばいくほど興味深い世界だ。
(後半に続く)
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