(71)READ MY PINS ~マドレーン・オルブライト氏の逝去によせて
2022年3月23日、女性初の米国国務長官を務めたマドレーン・オルブライト氏が84歳で亡くなったというニュースが入りました。
en.wikipedia.org/wiki/Madeleine_Albright
オルブライト氏は、ソビエト連邦崩壊後のクリントン政権下、対中東やコソヴォ紛争他、数々の緊張状態の中、外交のトップに立った政治家であり、学者であり、ビジネスウーマンでした。
人権と自由を非常に重んじ、「民主主義擁護者」として、人道危機に対してはNATO軍事介入も辞さない姿勢を貫いた鉄血の女性というイメージがあります。
その一方、彼女にはウイットに富んだ独特の装いの哲学がありました。
(写真はREAD MY PINSより)
以前もこのブログでご紹介したことがありますが、オルブライト氏は彼女の外交政策メッセージを伝えるために、ブローチを身につけて公の場に臨むことで知られていました。
彼女の著書「READ MY PINS(私のブローチの意味を読み解いて)」に国際会議の場や各国首脳・要人との会談時につけていたブローチとエピソードが紹介されています。
readmypins.state.gov/about-the-secretary
「私は米国を代表していましたので、毅然としていることが肝要でしたが、女性らしくエレガントに着飾ることも好きでしたし、大いに楽しみました。
なにより、私のメッセージがどの程度受け止められているのか意識し、試行錯誤しました」
https://www.youtube.com/watch?v=oEZwvNUW_80
(上二つの写真はREAD MY PINSより。下はPLOアラファト議長と)
湾岸戦争下のサダム・フセインをして「無類ないクレーマー」「比類なき蛇」と言わしめた時、彼女はその屈しない姿勢をアピールする為、国連安全保障会議の場で、木に絡みついた蛇のブローチをつけました。
https://www.youtube.com/watch?v=y1p6mQc6qBM
また、地球温暖化防止・北極熊絶滅危惧のメッセージを込めて、リア・スタンの白クマのブローチをつけて現地視察に赴いたこともあります。
英国のエリザベス2世もブローチ使いが上手なことで知られていますが、オルブライト氏のブローチは、女王のように後の世に美術館に並べられるような「宝石が散りばめられた名品」というわけではありません。
殆どが所謂コスチュームジュエリーでヴィンテージから新進の作家のものまで多岐に及んでいます。
外交手段であり、平和と民主主義を訴えるツールであるブローチに、宝石やブランド価値は必ずしも必要ではなく、彼女にとっては、作品のデザイン性と機知が重要でした。
その確固たる学識に基づく国際情勢分析力は、癌で家族に見守られ息を引き取る直前まで発揮されました。
今回のウクライナ侵攻に関しても、オルブライト氏は、亡くなる一か月前New York Timesに以下のように寄稿しています。
以下その一部です。
"Instead of paving Russia's path to greatness, invading Ukraine would ensure Mr. Putin's infamy by leaving his country diplomatically isolated, economically crippled and strategically vulnerable in the face of a stronger, more united Western alliance,"
外交的に孤立し、経済的にも脆弱化したロシアの指導者の現状を明確に予見した彼女が、今外交の表舞台に立ったとしたら、どんなブローチをつけて臨んでいたのでしょうか。
ちょっとした幸せ (64)オルブライト氏とリア・スタン
リア・スタンが1936年生まれの86歳で同年代であること、
東欧からの移民家族であること、少女期に第二次世界大戦下の苦境を経験していること・・・
ブローチで繋がれたご縁だけでなく、その数々の共通点からオルブライト氏がリア・スタンのブローチのファンであったことは想像に難くありません。
READ MY PINSの出版記念のレセプションには、リアと娘のキャロルも招待されて出席しています。
リア・スタンのブローチの中でオルブライト氏が気に入ってよくつけていたのは
「森の賢者」といわれるフクロウのブローチです。
ハードネゴシエーションにも、良いヒントを与えてもらえると、好んで選んでいたようです。
昨日、リアにもお悔やみのメールを送りましたが、まだ返事はなく、同年代の志で繋がっていた人物が亡くなり、気落ちしているのではないかと心配しています。