観客を楽しませることに全力~『侍タイムスリッパー』感想(ネタバレあり)〜
(以下、『侍タイムスリッパー』の感想ですが、物語の核心に迫るようなネタバレがあります。ご注意ください。)
作り手たちの時代劇への愛が見ているこちらにも伝わってくる、エンターテインメント作品でした。
「低予算で時代劇を作る」という難易度の高い挑戦を、物語上の設定やスタッフの工夫で上手く乗り切っていたと感じました。
例えば、昔に比べて高画質な映像を撮ることができる現代では、時代劇のセットや衣装などの「作り物感」が観客に気づかれやすくなっていると思いますが、今作では、最初から撮影所を舞台にしたストーリーにすることによって「作り物感」をあえて全面に打ち出し、見ている側に違和感を抱かせない様にしています。また、「幕末の侍が現代にタイムスリップする」という設定によって、主人公が現代の日本で右往左往する『バック・トゥ・ザ・フューチャー』的なカルチャーギャップの面白さを描き、大がかりなセットや大量の着物や小道具を用意せずとも、新しい魅力を持った時代劇を生み出すことに成功しています。
映画を見終わって、低予算でありながら、こんなに素晴らしい作品を作り上げたことに驚きと尊敬の念を抱きました。そして、だからこそ、「こんなに素晴らしい技術と発想力と才能があるスタッフなら、もうちょっとここら辺がブラッシュアップされていたら・・・」という気持ちが出てきてしまったのも事実です。
特に映画の後半、クライマックスにかけての展開。主人公のある決断(真剣を使って撮影する)を、周りの人間(監督や撮影所の所長)が受け入れるのが、急すぎるのとあまりに現実離れしていて、気持ちが乗れませんでした。必死に制止しようとする助監督に全く耳を傾けようとしない監督たちの姿には「何なんだこの人たちは・・・」と引いてしまったし、映画のラストまでその事に批判的な描写がないのにもモヤモヤしました。「異様なこだわりを見せる映画監督」や「自分の保身しか考えない撮影所の所長」という戯画化されたキャラクターたちの行動、というのは理解できます。しかし、「監督など上の立場の人がスタッフの意見を聞く」「スタッフやキャストの安全を担保する」というのは映画を作る上でめちゃくちゃ重要なことだと思うので、今作のようなバックステージものでは、そういったことに対して配慮が行き届いた表現を観たかったです。この件(撮影で真剣が使用される)に関して言えば、過去には死亡事故(1989年の映画『座頭市』制作時の事故)もあったので、そのことも思い出して「うーん」となってしまいました。
上記のことに関連して、吹上タツヒロさん演じる武者小路監督のパワーハラスメント(役者に怒鳴る、助監督の言うことを聞かない)も作中であまり批判されず、「そういうキャラクターだから」という感じで済まされているような気がしたので、そこも飲み込みづらかったです。
色々書いてしまいましたが、作り手たちの「観客を楽しませたい!」という思いを感じる熱い映画で本当に素晴らしい作品だったので、未来映画社の今後の作品にも注目していきます。