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【ショートショート】お弁当箱のパラドックス

「わっ!由紀のお弁当すごーい!」
お昼休みのチャイムと同時にお弁当箱を広げると、そこには豪華おかずが広がっていた。
ハンバーグ、エビフライ、卵焼き。一流選手揃いだ。
「しかもそれ全部手作りじゃない?あんたのお母さん毎日凄すぎるよ」

恵は羨ましいと言いながら、菓子パンを口に頬張る。
「昨日の余りもあるし、たまたまだよ。お父さんとお姉ちゃんの分も一緒に作ってるし」
口では謙遜しているが、実際にうちのお母さんは凄いと自負している。自分が学生時代の時に毎日購買のパンを食べていて、「娘が出来たらちゃんとしたお弁当を毎日作るんだ」と心に誓ったらしい。

本当に感謝しかないのだが、私には1つだけどうしても許せないことがある。
「……今日もブロッコリー入ってる」
不満そうな私の顔を見て恵が笑う。

「あのね、私考えたんだ。このお弁当箱の中が世界の全てだとします」
恵がふむふむと咀嚼しながら話を聞く。
「お弁当を作るお母さんは、すなわち世界を作った神様です」
「ハンバーグもエビフライも卵焼きもこれは全部幸せです。でもブロッコリー、これは不幸です。」
恵は相変わらず呆れた顔をしている。
「ああ、なぜ全知全能な神様が本当にいるのならば、なぜこのような試練を与えるのか……」

大げさに天を仰ぐマネをする私に対して、恵がぽつりと。
「おかずも世界も、幸せばかりが当たり前になったらそれは幸せじゃないよ」

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