解雇規制緩和と年末調整廃止の影響について②年末調整【総裁選】※サラリーマン必読
こんにちは、まじこじまです。
今回は昨日に引き続き、小泉進次郎氏・河野太郎氏が発言した「解雇規制緩和」と「年末調整廃止」について私から解説と考えをお伝えします。
昨日の記事はこちら(解雇規制緩和)
結論から言うと、僕は「やるにしてもまだ早いし、やめといた方が良いんじゃないの…という反対派」ですね。
結論…僕が反対する理由3つ
反対理由①税務署が耐えられるのか
反対する理由は、まず「年末調整」の時点で各個人から企業の人事部が大半の手続きを代行している状態で、それでも申告の不備が非常に多い。ましてや確定申告のほうが遥かにめんどくさいので、これを国民全員にやらせるなんてことをしたら、税務署の現場が崩壊するでしょう。確定申告の時期だけではなく、申告の不備による追徴対応など、2~3月だけではなく長期的に激務になるはずです。
反対理由②河野太郎の主張「自動化できる」が疑問
また、もう1つの理由は河野太郎氏が根拠に掲げる「マイナンバーカードを活用した自動化」のプロセスが全く見えない点です。「申告時の負担を自動化するのであれば、経費計上する全ての買い物を行うときにマイナンバーカードを読み込ませるくらいしてくれないと個人の申告負担は軽減されない…もとい、会社の給与や保険料控除等はマイナンバーで対応できるとして、政府は副業の解禁を奨励しているわけですが、複数の所得減を持つ人の申告には対応できないわけで、河野氏の「目的」である税のとりっぱぐれを無くすという点においては結局手動で追加申告が必要になるので、手段がズレていると感じます。
反対理由③サラリーマンのリテラシーは低いぞ。
サラリーマンのマネーリテラシーが有識者たちが考えているよりもずっと低いという現実を、2万人以上の年末調整事務や電話問い合わせをアウトソーシング会社時代に担当した経験から実感しているからです。
(僕も20代の頃は、総務に催促されて言わるがままにハンコついて出すものでした)
これら理由から僕は反対派なわけですが、その前提にはアウトソーシング業界での知見があります。
僕の視点…アウトソーシングの現状から
企業経営者や、人事部門等の担当をしている会社員以外にとってはあまり知られていないお話かもしれませんが、「給与計算(年末調整含む)」はアウトソーシング(業務委託で別の会社に任せる事)業務の中で最もメジャーな業務の1つで、大企業や官公庁・自治体などの多くが給与計算をBPO会社に任せています。その市場規模はなんと11兆円にも及びます。
中でも年末調整というのは、11月~12月中旬の約1.5カ月だけ爆発的に業務量が増える(社員からの申請方法についての電話も鳴りやまない)という性質から、人事部門の負担が大きくこの時期は深夜残業で帰れない日が続くので、期間限定でパートを雇う、あるいはアウトソーシングするという需要が高い業務でした。ただ、アウトソーシング会社にとっても年末調整業務を受けるのはリスクもコストも高いので、せっかく依頼が来てもお断りする会社も多い現状があります。
だって、「1.5カ月だけ都合よく」これらのものを用意できないですから。
短期間だけ働いてくれるけど知識は必要なスタッフ
十分な業務スペースの確保(大量の紙を扱うため)
パソコンなどのOA機器
電話
管理能力と年末調整の知識があるマネージャー
そんなに都合よくヒトもモノも用意できません。
(特に一番ハードルが高いのがスタッフ。年末調整は「難しい」と感じるので、研修期間だけ出社して「飛ぶ」人とかも少なくありません。)
また、これは確定申告の時期も同様で、2月~3月の確定申告期間だけオープンする、「確定申告コールセンター業務」も、国税庁や各自治体の税務署から公共事業入札案件で公示が出されます。消費者からの問合せが増えるからですね。これについても同様に短期間だけ限定的に「ヒト・モノ」を用意しろ!というお達しになるので、大手BPO会社でも二の足を踏む案件になります。
(だって、1.5カ月だけ「確定申告にまつわる問合せ」に答えられるオペレーターを用意しろ!って無茶な話ですよね?もちろん、研修してQ&Aを用意して…とやるわけですが、研修して普通の人を使い物にしなければならないし、少なくとも現場の統括者は税の知識に深くないと、オペレーターが回答に困ったときにエスカレーション(代わって回答を伝える)ことができません)
現状でも、年末調整・確定申告ともにパンク状態なので、この状態で「負荷を確定申告時期に集中させる」というのは愚かすぎると言わざるを得ない。最低でも、会社員給与の確定申告における完全自動化が達成できた後の未来に検討すべき議論かと思います。
僕の視点②…Saas企業が大打撃を受ける
さて、もう1つ厳しくなる企業群があり、これが最近はやりのSaas。
「年末調整といえばSmartHR」というくらい、画期的かつユーザーにとっても非常に理解しやすい「アンケートに答えていくだけで年末調整が出来上がる」質問形式の書類作成で不備や提出率の課題を解決した優れた製品があるのですが、人事・総務・経理などのバックオフィス分野は「DX」の需要が高く、これら企業が打撃を喰らう事も想像に難くありません。
他の人事総務システムを使っているけど、「年末調整だけはSmartHRを個別で契約して使う」みたいな会社もあるくらい、年末調整はIT系企業にとって悩みの種でもありメシの種でもあるのです。
もちろん、年末調整だけのシステムを作っている会社ばかりではありませんが、年末調整は「ドアノック商材」としても優秀で、人事部門や経営陣の悩みが深い
①年末調整のタイミングで導入
②使用感に感動を覚える
③その他の機能にも興味が出て導入が進む
という順番で、アップセルの起点になったりもしています。
顧客にとって需要が高い一つの機能がまるまる抜け落ちるわけですから、対策を考えなければならないでしょう。Saasは伸びに伸びている業界なので、その杭を叩いてしまう行為はマイナスの影響が大きい気がします。
こうしたデメリットを抑えてまで、果たして年調を廃止することで成果が出るのか?疑問があります。
ここまでが僕の視点なのですが、中立的な立場を記事に加えるため、賛成派の視点・反対派の視点それぞれを以下にまとめました。
賛成派の視点
税務の透明性向上
確定申告を全サラリーマンに義務付けることで、所得全体を一元管理し、脱税や申告漏れを防ぐことが期待されています。現在、マイナンバーカードの普及率は64.3%に達し、政府は2024年に健康保険証との一体化を目指していますが、普及率は鈍化してもいます。コスト削減と効率化
年末調整を廃止すれば、企業の人事部門はその業務負担から解放され、コスト削減につながるという見方もあるでしょう。特に、従業員数が多い大企業にとっては、年末調整業務にかかる手間が大幅に軽減されるため、効率化が期待されます。またアウトソーシングの依存度が高い企業では、業務コスト削減が大きなメリットとなります。関連市場の成長機会
確定申告が義務化されることで、税理士業務や税務コールセンター業務の需要が急増します。特に、確定申告の時期において、税務署関連のコールセンター業務の入札案件が増えることが予想されており、これが新たな市場の成長をもたらす可能性があります。税務に特化したアウトソーシング企業にとっては、新たなビジネスチャンスとなるかもしれません。
反対派の視点
サラリーマンの負担増加
確定申告は、サラリーマンにとって煩雑な手続きとなり、多くの人が手続きに困惑することが予想されます。特に、高齢者やITに不慣れな層では、誤申告のリスクが高まります。実際に年末調整の電話対応をしていた経験からも、従業員から寄せられる問合せでは
「控除って何ですか?還付って?」というレベルの質問も多く、税制を十分に理解していないケースが多く、確定申告への全面的な移行は混乱を招く可能性が大いにあります。アウトソーシング業界への打撃
年末調整業務は、アウトソーシング業界において非常に重要なビジネスです。クラウド型の年末調整システムを提供する企業(例:SmartHRやマネーフォワード)のシステムは、既に導入済みの企業が20.2%、導入を検討している企業が19.7%となっており、今後の需要も高い状況です(2022年_年末調整に関する市場調査)。市場規模は数千億円に達するとされています。年末調整の廃止により、これらのシステムを売りとしたクラウドサービスや年末調整代行を受託するアウトソーシング業界に大きな打撃が生じることが予想されます。企業の問い合わせ負担増
年末調整が廃止されても、企業の人事部は結局、確定申告の時期になって従業員からの問い合わせ対応に追われるでしょう。しかも、その問い合わせが激増するのは人事にとって最も繁忙期である2月-3月です。結局は人事部がその対応を強いられる可能性があります。採用や入社手続きでただでさえ帰れないほど忙しい時期に、従業員から確定申告の電話がかかってきたら人事部は潰れてしまいます。アウトソーシング会社のリソースも無限ではないので、お断りされることも多いでしょう。
まとめ
年末調整の廃止によって、税制の透明性が向上し、企業のコスト削減が図られる一方で、会社員やアウトソーシング業界には大きな負担がのしかかります。
特に、ネーリテラシーが十分でない従業員に対して確定申告をさせるというのは、周囲も含めて負担が大きいという観点から、私はこの提案にはその効果を疑問視せざるを得ません。
…全国民がちゃんと税金や控除の仕組みを理解しようっていうのは、正論ではあるのですけどね…
<PR>年末調整や確定申告についてはみんなも気になる「節税」をどれだけ普段から行っているかどうかで、払い過ぎた税金が還付されるのか、それとも追加納付が必要になるのかが変わります。
「ふるさと納税」くらいしかやっていなかった人も、ただでさえ増税路線の国ニッポンで暮らすのですから、この機会に勉強して対策するのもよいかと思います。(僕は独立して色々と勉強しました…税理士の友人と建てた会社ですし)
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