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異文化理解のお手本のような優しい眼差し ー沖縄本紹介(1)『内地の歩き方』

沖縄は地方出版社王国。在住中に書店で面白そうな書籍を見つけては購入し、読み耽っていたこともあり、僕の自宅の書棚には沖縄本がコーナーとして一角を占めています。今日はその中からおすすめをご紹介。

書 名:内地の歩き方 沖縄から県外に行くあなたが知っておきたい23のオキテ
著 者:吉戸 三貴
出版社:ボーダーインク

進学や就職で沖縄県を離れる若者向けに、内地(沖縄以外の都道府県)で暮らす際の注意点をまとめた、いわば内地生活ガイドブック。この企画の着眼点がまず面白い。沖縄の出版社ならではの発想であり、著者自身の知識や経験(那覇出身、大学進学で上京、その後、沖縄と東京でPR・コミュニケーションに関するお仕事をされている)もふんだんに盛り込まれている印象です。

「沖縄から内地ったって同じ日本なのにそんなに違うの?」と県外の人は疑問に感じるかもしれません。しかし例えば沖縄には電車がない!県境がない!気候が違う!飲み会の習慣が違う!などなど、戸惑うところは意外に多いと思います。

序盤の家探しや仕事の心がけなどは、沖縄県民に限らずどの都道府県の人にも当てはまりそうな「一人暮らしの注意点」ですが、中盤からは特にコミュニケーションの観点で、生粋の沖縄県民が内地に出てきて困惑しそうなポイントを噛み砕いて、優しい語りで解説してくれます。

例えば笑っちゃったのが傘の項目です。沖縄の人はあまり傘をささない。これは僕も沖縄で気づいてました。スコールが多いからか、汗をよくかくのでシャワーを浴びるのに慣れているからか、沖縄県民はそこそこの小雨くらいだと傘を持っていたとしても差さずに平気で歩いている。けれど著者は、それに慣れているからといって内地で同じように生活してはダメだと説くのです。

「本人が濡れてもいいと思っているんだから良いじゃないか」と思うかもしれませんが、問題なのは、あなたが傘を持っていないことでAさんに気まずい思いをさせているという点です。(P88)

最初は「沖縄あるある」を、内地の生活と対比することで浮かび上がらせて、面白がる系の書籍だろうと軽い気持ちで読み始めました。

確かに気軽に読めます。しかし、読み進めるにつれ感動すら覚えるのが、著者のスタンスが、異文化理解のお手本のような優しい眼差しと思いやりにあふれている点です。

沖縄の文化は◯◯、内地の文化は××。どっちが良いとか悪いとかはなくて一長一短。けれど内地で生活するのであれば、その文化を尊重して、こういう風に考えて、こう接してみては。終始こんな感じで進むのです。

内地の生活では、沖縄では得られない経験値や刺激を得られます。一方で、離れて初めて気づく「沖縄の良さ」もあります。異文化に触れることで、自分の所属していた文化・風土を相対化することができ、その上で、自らのアイデンティティを改めて認識して、主体的に選び取ることができます。これは異文化コミュニケーションで得られる貴重な「気づき」だと言えるでしょう。

僕は、異文化理解の次のステップは、さらにそこから踏み込んで、異文化の相手の言動が自分の価値観と異なったとしても許すことができるか、だと思います。内地と沖縄に限りませんが、最近のネット上の言説を見ていると、異文化の相手の価値観に対し蔑んだり攻撃したり、心ない言葉を浴びせるような行動が目について、胸が痛みます。

著者は「沖縄あるある」を何度も振られてうんざりとしている県民も少なくない中、「話を振ってもらえるのは相手の優しさや関心の表れ」とポジティブに捉え、前向きに対応するようにしているそうです。気持ちの保ちようが本当に尊くて、ほっこりするんですよね。

本書の中では内地の「律し合う文化」に対して、沖縄を「許し合う文化」と言及しています。あらゆる異文化理解・異文化尊重の場面における「許す」行為の価値について、ギスギスした世情だから余計にそう思うのか、改めて気づかせていただきました。沖縄県民でも、県民でなくても、ぜひ手に取ってみていただきたい一冊です。

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