やばい、まじやばい! 大食い界に超新星が現れた
やばい、まじやばい!
何がやばいって、大食い界にこれまでの番組コンセプトをぶち壊す超新星が現れた!
昨日の撮影は飯田橋だった。
それも昼特番の生放送。
実は店選びがけっこうたいへんだった。
ディレクターの徳さんから、また次の店選びもADのお前に任せるからって言われたのが先週。
正直、激盛り店はネタ切れ状態だった。
だって、もう4週連続で私が店探し担当になってる。
飯能くんだりから毎日片道1時間半かけて都心に通ってるんだから、都内で撮影OKで大食い用に激盛りやってくれる店なんかそんなに知ってるわけないっての。
徳さんはパワハラ怖がって言葉使いはいつもすごく丁寧で優しいけど、言ってることは鬼。超鬼!
「任せる」って聞こえはいいけど、簡単に言うとそれって私に全部丸投げするってこと。
だから、最近は現場に顔を出さないこともある。
特に生放送とかは絶対来ない。
何かしくじったら全部ADのせいにして、自分は逃げる気まんまん。
ADなんて使い捨ての奴隷ぐらいに思ってるよ。あれは絶対。
とにかく、私には大食いやらせてくれる店のストックなんかもうなかった。
仕方ないので、飯田橋の行列のできる町中華 「ラーメン道場 珍来亭」に頼み込んだよ。
珍来亭って、確かに味はそこそこ美味しい。 けど、店主が超威張ってる店。
上から目線で客の箸の上げ下ろしまで注文をつける。
だから本当は絶対に頭なんか下げたくない店・・・なんだけど、店主がテレビに出るのが大好きだから、店の宣伝にもなるって言えば、絶対この話に乗ってくると思った。
案の定、 「そこまで言われたら、仕方ねーから出てやるよ。バカヤロー!」 の超上から目線の承諾。ふざけるなって。
大食い番組は、基本的には2つのパターンがある。
1つは、出演者が外食チェーン店に行って大食いを競うパターン。
「企業案件」はだいたいこのパターン。
回転寿司チェーン、ファミレスチェーン、焼肉屋チェーンが、人気メニュー、目玉メニュー、新作メニューを紹介するのが目的。
だから台本にもいっぱい手が入って、誰がどの順番で何をどのぐらい食べるか、感想として何を言うかが決まってる。
きれいに食べて、嫌味なく上手に美味しさを伝えられる大食いタレントが重宝される。
CM収入が激減してるテレビ業界としては、スポンサーの確保もできるし、視聴率もそこそこ取れるし、出演者のギャラもそこそこ安いし、何より企画が楽なので、実に美味しい。
台本をちゃんと作るようになったのは、本気の大食い競争と勘違いした元大食いチャンピオンの鹿児島の魔女斎藤さんが、ひたすら鉄火丼だけ17杯も食べ続けた事件から。
これじゃうちでやってもらった意味がない!って、回転寿司チェーン店の社長から猛抗議を受けた。その回はお蔵入りになったよ。
で、もう1つのパターンが、出演者に人間の限界を超えた超激盛りメニューに挑戦してもらうもの。
これはだいたい個人店が中心になる。
テレビに出れるし店の宣伝になるから、大食い番組やらせて欲しいっていうと、けっこう話に乗ってくれる。
今回がこのパターン。
だいたいのコンセプトが、45分で大食いタレントがギリ食べれるか食べれないかの量の激盛メニュー(重量で5キロ~7キロが目安)を出してもらって、完食できるかを競わせる。
なので、通常の大盛りとか特盛とかじゃなくて、特別な激盛りメニューを店に用意してもらうことになる。
店側としては宣伝を兼ねてるから、その店自慢の食材をどかどかぶちこむ。
その結果、とても人間の食べるような見てくれではなくなってる場合が多いんだけど、そんなことは気にしてられない。
視聴者があっと驚く分量と奇天烈な外観となることがとにかく重要。
今回は、生放送特番ということで、時間を30分に短縮して、重量も大食いタレントなら完食できる3.5キロにした。
完食できないと視聴者が納得しないからね。
なので、見た目のインパクト勝負が今回のコンセプト。
出演者は、大食いアイドルのマユマユ、そして今回テレビ初出演の大食いYoutuberの牟田くん。
マユマユは私の超お気に入りの大食いタレントさん。
ルックスもいいし、頭もいいしで、視聴率が取れる。でも、何よりいいのが、素直で協力的なこと。
前に、スタジオ収録の大食い番組の後、彼女が局のトイレを詰まらせちゃって(どんだけ出すのよ、いったい!)、困っていたのを助けてあげたのが仲良くなったきっかけで、今や私の”お願い”ならたいてい何でも聞いてくれる。
牟田くんは25才でサラリーマンやりながら、Youtubeで大食いチャンネルをやってる人。 大食いする時に、水ではなくてコーラを飲むのが彼のトレードマーク。
一回あたり平均20万回ぐらいのビューがあるそこそこ人気のあるYoutuberなんだけど、私から言わせればまだ素人にちょっと毛が生えた程度の子。
見た目は普通だけど、彼のYoutubeチャンネルの視聴者層のZ世代の受けを狙って今回抜擢した。
今回のチャレンジメニューは、巨大皿に超大盛りチャーハン1.5キロ、その上にエビマヨ、麻婆豆腐、八宝菜、特大餃子10個、特大シュウマイ15個、特大揚げ春巻き10本、味付け煮玉子5個、厚切りでかチャーシュー2本がとにかく下に落ちないようにぐちゃぐちゃと乗ってるもの。
で、チャーハンの中にはお約束の巨大唐揚げが埋め込まれている。
見た目はほぼ巨大な残飯に近い(少なくともお客に出せるレベルではない)けど、見た目のショッキングさとしてはほぼОK。合格。
最初、食材としてチャーハンを提案した時、店主は「うちはラーメン屋だぞ、何考えてんだ。バカヤロー!」って激怒り。
でも、ラーメンは最初すごく熱いから、出演者がハフハフするだけで、せっかくの美味しさも伝わらないし、生放送の”つかみ”としても弱い。だから、最初から美味しそうにガツガツいけるチャーハンにしたいって言ったら、まだぶつぶつ言ってたけど一応納得した。
打ち合わせの間も、調理場での3人がかり(うち1人はうちのスタッフ)の調理過程は丸見え。
なので、いったい何が作成されているかは最初から丸わかりだけど、進行役のMCを含めて出演者は、料理が出てきたら、唖然とする表情で初めて見るようなリアクションをしなきゃならない。
マユマユと牟田くんには、料理が出てきたらとにかくびっくりすること、制限時間ぎりぎりで完食すること、お約束のチャーハンの中の巨大唐揚げは最後まで手をつけないで、最後の最後に気づいてびっくりすることの3点だけお願いした。
進行台本通り最初のCM明けの12時10分から大食いチャレンジがスタート。
でんと置かれた「至高の激盛チャレンジチャーハン」と名づけられた無残な料理を前に、マユマユも牟田くんも唖然、呆然の顔をばっちりきめてくれた。
マユマユにいたっては、美味しいものを前にした女の子がする”うっとり顔”までして、食べだしてくれましたよ。
見た目もさることながら、作ってるうちにすっかり冷めちゃってるから、ちっとも美味しそうじゃないんだけど、さすがプロだわ。
うわーーーっ!このチャーシュー最高ですー!。やわらかくて、それでいて肉肉しさもあって、食べるとお口の中で溶けちゃいますー!ホント美味しいです!
八宝菜のお野菜もとってもフレッシュでシャキシャキ感がもうたまりません!
台本が無くても、場馴れしてるのでコメントもぬかりがない。さすが。
牟田くんは、ちょこちょこっと一口づつ食べてから、難しい顔でじっと料理を見てる。
MCの芸人パンチョさんが私を見て、”どうする?”って牟田くんを指さしながら口パクで聞く。
”お願い、突っ込んでー!” って、口パクで指示。
「おおっと牟田くん、一口づつ食べて箸が止まりました。いきなりここで作戦タイムかー。牟田くん、どうしましたか?」
「いや、これ思ってたよりかなり厳しいですね。」
「厳しい? 牟田くん、どこが厳しいところなんでしょうか?」
「どれもすごくまずいんですよね。 無理です・・・ ギブします。」
ええええーーーーっ!
店主の顔が引きつってるしー。
「ギッ・・・ギブですか? まっ、まずいですか?」
「そうですね、まずい・・・というより、すっごくまずいです。」
パンチョさん固まってる。完全に固まってる。
やっやばい、放送事故来るーーー!
“とにかく進めて!” そう殴り書いて、カンペをパンチョさんに示した。
パンチョさんが頷く。
「とっ・・・ともあれ、こっこれはすごい戦いになりましたーー! ところで、このチャーシューはどのぐらいの重さがあるんでしょうか? 店主の吉田さん。」
「重量は一本300g。豚は岩手のプランド豚、八幡平の黒豚!それを秘伝のタレで二晩かけて煮込んだうちの自慢の一品だ!どうだまいったか、バカヤロー!」
「牟田くん、いかがでしょうか? お店自慢の自家製チャーシュー。いかにも美味しそうですが。」
「いや、ちょっと無理ですね。臭いし味も食感もひどい。他の食材も同じで、どれもこれもまず過ぎです。ギブします。」
“お願い!ギブだけは撤回させて!” とカンペ。
パンチョさん頷く。パンチョさんもやばいと思ってる。
「牟田くん、どうしてもギブですか? 大食いYoutuberの誇りにかけて、ここは頑張れませんか?」
「すみません。たいがいまずくても頑張れるんですが・・・ これは生理的に受けつけないです。 無理。 ギブでお願いします。」
マユマユが横で盛大にゴホゴホむせ返っている。
”マユマユに話ふって!”とパンチョさんにカンペ。
「マユマユさん、牟田くんはギブって言ってますが、マユマユさんはまずくても大丈夫ですか?」
いや、パンチョさん、そう聞いたらダメでしょー!
「私はプロなので、根性で我慢して完食します! まずいぐらいで勝負をあきらめるぽっと出のYoutuberとは根性違いますから。」
マユマユも壊れてるしーーー!
でも、それを聞いて牟田くん、かなりカチンと来たみたいなのね。
すごい目でマユマユを睨んでた。 牟田くん、スイッチが入ったんだと思う。
テーブルにある、醤油、ソース、酢、ラー油、胡椒、辛子、おろしにんにくを手当たり次第ダバダバ料理にぶっかけだした。
「おおっと! 牟田くん、どうしたんですか? そんなにドバドバいろいろかけて?」
「クソまずいので、調味料とにんにくで味をわからなくして、根性で我慢して食べます! Youtuberの根性見せます! ギブ取り消しで!」
「ここで、牟田くん、ギブ取り消しきたーーーー!」
それからはすごかった。
牟田くん、ぶっかけた調味料(特に酢)やにんにくの刺激臭にむせ返りながら、鬼の形相で、まずっ、ぐほっ、ぶほっ、まじっ、うぷって言いながら、25分かけて完食した。 (最後の方は、飲んでたコーラまでドバドバかけて、もうなんだかわからない汁物になってた。)
マユマユも途中から同じように全調味料&おろしにんにくぶっかけ味変作戦で、ぐほぐほ盛大にむせながら30分ぎりぎりで完食した。
二人とも見た目は完全に罰ゲーム状態だったけど、白熱した戦いだった。
途中、局に残ってた徳さんから瞬間視聴率が20%を超えてるぞ、視聴者コメントもすごいことになってるぞって連絡が入ったから、珍来亭の店主が「こんなチャレンジなんか中止だ!中止!バカヤロー!」って怒鳴りだしたけど、ガン無視した。
局に帰って来たら想像以上の大騒ぎになっていた。
最高瞬間視聴率が32%!
徳さんだけじゃなくて、その上の偉い人からもがっちりハグされた。
番組のホームページは、視聴者からのコメントが3万件を軽く超えてた。
どれも「こんな大食い番組を見たかった!」とか「死ぬほど笑った!」とか好意的なコメントばかり。
スポンサーからは、早速、牟田くんとマユマユを使っての大食い特番ができないかって話が来たし、番組スポンサーになれないかって問い合わせも何社が来たって話だった。
外食チェーン店からは、牟田くんに美味いと言わせる大食いチャレンジの企業案件も来たそうだ。
大食い界にとんでもないスターが誕生した。
珍来亭はどうなったかって?
昨日かんかんに怒って塩までまかれた店主から電話がかかって来た。
今日は開店から客が殺到してるって。
特盛チャレンジ(昨日の激盛りの1/3の量だって言ってた)を頼んで、調味料とにんにくで味変して、ぐほ、ぐほむせながら、コーラ飲んで食べるやつが続出らしい。
「お前ら、まずそうに食べるな、バカヤロー!」って怒鳴ると、大受けするって嬉しそうに言ってた。
あの上から目線は設定上のキャラだったのね。
でも、ずいぶん機嫌が良かったってことは、昨日帰り際に腹いせに、マユマユに言って、あそこのトイレの便器をう○こでいっぱいにさせたんだけど、ちゃんと全部流れたってことなのかしら・・・・
すべて事実に一切基づかない作者の想像の産物です。
大食いファンのみなさんごめんなさい🙇♀
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