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【医師が徹底解説】患者・家族からのクレーム対応5つのステップ【医】#47

こんにちは、心療内科医で緩和ケア医のDr. Toshです。緩和ケアの本流へようこそ。

緩和ケアは患者さん、ご家族のすべての身体とこころの苦しみを癒すことを使命にしています。

今日のテーマは「患者さん・ご家族からのクレーム」です。

動画はこちらになります。

あなたは患者さんやご家族からクレームを受けたことはありますか?

実は私は若い頃にはよく経験しました。当時はどう対応していいかわからず困っていました。

今日は、患者さんやご家族からクレームを受けた時、どのように考え行動すればいいかについてお話します。この記事の中では、私の若い頃の失敗談と、今の私が当時の私に言ってあげたいなぁと思うことをお話します。

この記事は、クレームにどう対応していいのか悩んでいる先生、また、若いドクターや医学生には転ばぬ先の杖としてもぜひ観ていただきたい記事です。この記事があなたのお役に立てばうれしいです。

今日もよろしくお願いします。


ご家族からのクレームにどう対応するか

患者さん・ご家族から何らかのクレームがあった場合、どのように対応したら良いのでしょうか。私が常日頃から大切だと思い、実践していることをお話します。

1.良いとか悪いとか判断せずにしっかり聞く

患者さん・ご家族からクレームを言われる場合、私はまずしっかり聞こうと思っています。聞く場所も静かで、お互いしっかり話せる場所を選びます。詰所や、廊下などではだめです。あなたのことを大切にしているという誠意に欠けるからです。

その際のポイントは、クレームを聞く時は、良いとか悪いとかのジャッジをせずに、まず相手の言うことを白紙の状態で聞きます。「なんのクレームなんだ」「こちらは悪くない」といった、自分を守る気持ちをもったまま聞くと、相手の言葉や思い、何を言いたいのかを正しく理解できないからです。

しかも、患者さん・ご家族は、自分の思いを受け取ってもらえてないと、さらに怒りが出てきてしまいます。まず、良いとか悪いとかを判断せずにしっかり聞きましょう。

2.相手が何を怒っているのかを理解する

そのように白紙の思いで聞いていくと、相手がどのように思い、考え、その結果なぜ怒っているのかについてわかってきます。

なぜ怒っているのか、何を怒っているかについて、理解するように努めましょう。だんだん、「ああ、このことでこの人は怒っているのだな」と分かってきます。すると「それは怒っても無理はないな」と思える部分と「これは誤解しているな」と思う部分が出てくると思います。

まずは、目の前の方が何を言おうとしているのかをしっかりと聞き、理解することが大切です。

3.自分に非があると思った部分は謝罪する

相手の言い分をしっかり聞いた後、自分に非があると思う部分があれば、そのことについては、素直に、そして誠実に謝罪しましょう。自分が「これについては間違っていたな」と思う部分については、自分から話を切り出して、謝ることが必要です。

4.医学的な誤解はしっかり説明する

次に、相手が誤解している部分に焦点を当てます。私の経験上、患者さん・ご家族のクレームの多くは、医学的な誤解からくることが多いです。医学的な誤解がある場合、相手が理解できるように、やさしい言葉で説明してください。

5.コミュニケーションの行き違いを修正する

また、次に多いのがコミュニケーションの行き違いによる誤解です。その場合、どちらが悪いというわけではないケースがほとんどです。

例えば、自分は説明したことを、患者さん・ご家族が聞いていないと言われた時などです。これは言った言わないの水掛け論になりがちです。

しかしこの場合、「私は言ったつもりですが、きちんと伝わっていなかったようで申し訳ありませんでした。」と自分にも責任があるという姿勢で伝えましょう。

今までのことを正しく行うことができたら、多くの場合、患者さん・ご家族は落ち着いてきます。どのような行き違いがあったのか、相手の話を聞きながら、相手と一緒に考え、コミュニケーションの行き違いを修正していきましょう。

私の経験では、以上のことをするだけで、多くの場合解決できることが多いです。
大事なのは慌てないことです。慌てずに、相手の話を聞くという態度が必要だということを、まずは理解してください。

この説明だけではイメージしにくいかもしれませんので、私の経験したケースと、今の私ならどのように対応するかについてお話します。ぜひ一緒に考えてみてください。


私が経験したケース

私がホスピス医になって1年目の頃に受け持った50代の卵巣がんの患者さんです。彼女には、がん性腹膜炎、がん性胸膜炎、肝臓転移がありました。

大学病院で治療を受けていましたが、抗がん剤治療の効果が無くなり、主治医からホスピスへの転院を勧められ、私が担当医となりました。

患者さんは、入院時に「大学病院の緩和ケアチームの先生から、ホスピスは症状緩和してくれて、残された時間を有意義に使えるところだと聞いてきました。まだまだ私にはやりたいことがあるの。」と話されました。

私は、産婦人科の主治医から余命は数カ月見込めますと聞いていたので「わかりました。しっかり症状緩和をして、あなたの大事なことができるように援助していきたいと思います。」と患者さんに話しました。

入院して1週間後、患者さんは体動時の呼吸苦を訴えました。胸部レントゲン写真を撮ると、入院時にはほとんどなかった胸水がかなり増えていました。

患者さんに「呼吸困難は胸水増悪によるものであり、モルヒネが効果あるので使います。」と話し了解を得て、内服でモルヒネを始めました。

最初はモルヒネの効果がありましたが、1週間後には横になっていても呼吸困難の症状を起こすようになってきました。食事も極端に減ってきたため、モルヒネは点滴にして、ステロイドも始めようと思い、患者さんに説明しました。

その日の午後、患者さんのお兄さんが血相を変えてやってきて、怒鳴るように話し始めました。

「全然話が違う。ホスピスは症状を緩和するところじゃなかったのか。妹は入院してから2週間経つのにどんどん悪くなっている。ここに来てから悪くされた。モルヒネを使ったのがだめだったんじゃないのか。それなのに今度は注射にするって?やめてくれ、妹を廃人にして命を縮めようとする気か?この結果、どうしてくれるんだ。」

私は心の中で思いました。

『これは私のせいじゃないよ。症状はがんが悪化して胸水が溜まったから出てきたんだ。呼吸困難が出たらモルヒネを使うのは、緩和ケアの世界では常識だし、内服できなくなったら持続点滴にすることも当然だ。たまたま入院してから急に病状が悪化したんだ。がんではよくあることだ。文句を言うなら、余命を長く見積もった主治医に言ってくれ。私のせいじゃない。』

しかし、当時の私はお兄さんには何も言えませんでした。


当時のケースを振り返る

皆さん、いかがだったでしょうか。それでは、このケースを今の私ならどう考えるかについてお話します。

まず、私は自分が悪くないと思ってご家族の話を聞いていました。この段階で、ご家族が何を言いたいのかを正しく理解するチャンスが失われてしまいました。また、患者さん・ご家族の感情に向き合えていなかったため、ご家族の怒りをさらに増幅させてしまいました。

では、ご家族は本当は何を言いたかったのでしょうか。

患者さんは、ホスピスで自分にとって最期の良い時間を過ごしたいと思って、入院してきたわけです。おそらく、患者さんはそのことはご家族にも伝えていたと思われます。ご家族も「ホスピスは症状を緩和するところじゃなかったのか」という発言にもみられるように、同じように理解していたのでしょう。そして、ホスピス医1年目の私も、その希望をかなえてあげたいと思っていました。

ここまで考えて、私が至らなかった点はいくつかあります。

まず1つ目は、「患者さんが入院した時に、主治医として患者さんの余命の判断をしなければいけなかった」ということです。

ホスピス1年目で経験が浅かったこともあり、当時の私は産婦人科主治医から余命は数カ月見込めますと聞いていたことを鵜呑みにしてしまいました。がん患者さんは、終末期には急に病状が悪化することが多く、入院時には必ず今後の病状の見込みについて再検討が必要なのです。

2つ目は、「病状が悪化する可能性について、患者さん・ご家族に話していなかった」ことです。

これから悪くなるかもしれないという厳しい話をすると、せっかく前向きになっている患者さんに水を差すようで、言いにくかったので、当時の私はそれをしなかったのです。

当時の私のように、悪くなったことを言いにくい方もいらっしゃるかもしれません。しかし、患者さんは終末期なので、急速に病状が悪化していくケースが多く、良いことだけ言っていたのでは、実際に悪くなった時に、患者さんやご家族の気持ちがついていけず、苦しむ結果になってしまいます。このケースもそうでした。

当時の私は、これから患者さんが良い時間を過ごせるように支えるという話をすると同時に、病状が急に悪化する場合があることと、その時にどのように緩和するのかという具体的な話もしなければいけなかったのです。

このように、自分が足りない部分があった場合、自分の非を認めて、しっかりと謝罪しなければいけませんでした。

次に、ご家族の話からわかることは、ご家族はモルヒネに対して間違った認識をしていたことです。それなのに、自分は悪くないと思っていたので、ご家族の言葉をしっかりと聞けていませんでした。その結果、ご家族がモルヒネに対して誤解していたことに気付きませんでした。

本来なら、医療用麻薬のモルヒネで寿命は縮まない、廃人になるなどということは決してないという、医学的な事実を、相手が理解しやすいように説明すべきでした。

説明をするうえで大事なことは、言いっぱなしにならないように気を付けて、相手の理解を確認しながら行うことです。このように、医学的な誤解があった場合、その誤解をしっかり説明すべきです。

また最後に「今後も症状緩和に努め、できるだけ苦痛が無いように治療・ケアをしていくことに努める」ということも必要でした。

私のケースを反面教師にして、もし患者さん・ご家族からクレームを言われたと思ったとしても、慌てずに相手に真摯に向き合い、しっかりと対応できるようになって頂ければ幸いです。


あなたに伝えたいメッセージ

今日のあなたに伝えたいメッセージは

「患者さん・ご家族からのクレームに対しては、自分の中に心当たりが無くても真摯に向きあってください。まずは患者さん・ご家族の言葉をジャッジせずに受け取りましょう。自分に非があると思った部分はしっかり謝罪し、医学的な知識不足やコミュニケーションのずれなどから来る誤解であるならば、わかりやすく修正しましょう。」

最後まで読んでいただきありがとうございます。

私は、緩和ケアをすべての人に知って欲しいと思っています。

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Dr.Tosh /四宮敏章
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