紫式部日記第18話御頂きの御髮下ろしたてまつり、御忌む事受けさせたてまつりたまふほど、

(原文)
御頂きの御髮下ろしたてまつり、御忌む事受けさせたてまつりたまふほど、くれ惑ひたる心地に、こはいかなることと、あさましう悲しきに、平らかにせさせたまひて、後のことまだしきほど、さばかり広き母屋、南の廂、高欄のほどまで立ちこみたる僧も俗も、いま一よりとよみて額をつく。

※御頂きの御髮下ろしたてまつり:ご出産直前の中宮彰子の頭頂の髪を、少しだけ剃る作法をすること。ご出産が前々日からの長時間に渡っているので、万が一の凶事に備え、仏のご加護を得るために、形式的ではあるけれど受戒させ出家させる。
※平らかにせさせたまひて:無事にご出産なされて。
※後のこと:後産。産後間もなく母胎に残っている胎盤が出ること。尚、一条天皇の皇后定子は後産で死亡した。

(舞夢訳)
中宮様の頭頂の御髪を、お剃ぎ申し上げ、御受戒をお受けさせて差し上げる時など、途方もなく不安に迷い、ここまでとはどうなってしまうのだろうか、と本当に胸がつぶれるほどに悲しさまで感じておりました。
そのような中、中宮様は、ご無事にご出産なされました。
しかし、後産がこれから、という間は、とにかく広い母屋から南の廂の間、高欄のあたりまで密集していた僧侶や俗人たちは、今一度声をあげて念誦なされ、額を床につけて拝礼をなさっておられます。

とにかく時間がかかった難産のようで、万が一を心配して、見守る人たちは、かなり緊張している。
また、無事にご出産なされた後も、後産の万が一が不安で、それが無事に終わるまでは気を抜けない。

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