紫式部日記第106話御前には、 「同じくは、をかしきさまにしなして、扇などもあまたこそ。」と、のたまはすれど、

(原文)
御前には、
 「同じくは、をかしきさまにしなして、扇などもあまたこそ。」
と、のたまはすれど、
 「おどろおどろしからむも、ことのさまにあはざるべし。わざとつかはすにては、忍びやかにけしきばませたまふべきにもはべらず。これはかかる私ごとにこそ。」
と、聞こえさせて、顔しるかるまじき局の人して、
 「これ中納言の君の御文、女御殿より左京の君にたてまつらむ。」
と高やかにさしおきつ。ひきとどめられたらむこそ見苦しけれと思ふに、走りきたり。女の声にて、
 「いづこより入りきつる。」
と問ふなりつるは、女御殿のと、疑ひなく思ふなるべし。

※これ中納言の君の御文、女御殿より~:中納言の君から託された弘徽殿女御からの手紙。中納言の君は女御に仕える女房、左京の馬も弘徽殿女御に仕えていた。その弘徽殿女御は皇后定子に仕えていた。中宮彰子からすれば、ライバル関係になる。

(舞夢訳)
中宮様が
「同じ贈るとしても、もう少し意を尽くして、扇なども数多くに」
とおっしゃられますが
「あまりに仰々しくしてしまうのも、どうかと思います」
「ただし、特別にお賜りになられると言うのなら、私たちのように人の目を避けて、何か意味があるように見せかけてはなりません。とにかく、内々でたくらんだことなのです」と申し上げ、その顔を知られていないはずの下仕えの者を使者に立て、
「これは中納言の君様に託されたお手紙になります」
「女御様から左京の様に差し上げたく存じます」
と、大声で言っておいて来ました。
仮に使者が引き留められてしまったらと、心配していたら走って戻って来ました。
あちら方では、女性の声で
「あの使者は、どこから入って来たのですか」
と受け取った人に聞いているらしくて、女御様からのものと、信じ切っていたようです。

中宮自身は、そんな苛めの魂胆には無関心。
贈り物をするなら、心のこもった物をと言うけれど、中宮に仕える女房達は馬耳東風、嘘をついてまで、左京の馬を揶揄する。
その理由は、かつてのライバル方皇后定子に仕えていた左京の馬への敵愾心が強いということかもしれない。

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