紫式部日記第132話さるは、宮の御心あかぬところなく(1)斎院と中宮御所の女房の違いについて
(原文)
さるは、宮の御心あかぬところなく、らうらうじく心にくくおはしますものを、あまりものづつみせさせたまへる御心に、何とも言ひ出でじ、言ひ出でたらむも、後ろやすく恥なき人は、世にかたいものとおぼしならひたり。
(舞夢訳)
それというのも、そもそも中宮様は、全く完璧なお方であって、上品で奥ゆかしい、あまりにもご自分のお気持ちを抑えてしまう、そんな御性格。
「口出しなどはしません」「口出しをしたとしても、信頼を寄せ切ることができる、万が一にも、自分たちが恥をかかないですむ、そんな女房なんて、まず存在しない」と考える、自分の「こうして欲しい」と欲する気持ちを抑え込んでしまう習慣が身にしみこんでおられるのです。
紫式部の立場では、上司である中宮彰子の「あまりにも自分の欲求を口にしない性格」を批判することはできない。
ただ、中宮彰子のその慎重極まる性格が、中宮付きの女房全体を覆う「消極的、余計なことは一切しない」雰囲気に影響している、との論を展開し始める。