Maiko Watanabe

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山本文緒 『無人島のふたり』

2022年9月に出版された、山本文緒さん最後の随筆。 山本さんのことは直木賞受賞作の『プラナリア』で知った。当時の私は、山本さんの描く甘えてウジウジした主人公のことが好きになれなくて、山本さんのことを軽い作家だとすら思っていた。 でも、甘えてウジウジした人物像の描写は実はとてもリアルだったのだと、今なら思う。プラナリアを読んでいた時期、私は江國香織さんの作品にハマっていたけれど、江國さんが東京の上流社会を詩的に描き出していたとしたら、山本さんは、現代日本の一般の(どちらかと言

    • 墓標の幸福

      米国に住んでいた頃、娘の保育園のそばに、Mount Auburn Cemeteryという古くて美しい墓地があった。もともとそういう地形だったのか、小高い丘になっていて、秋になると美しく紅葉する大きな木々の植えられた、歩けばちょっとしたハイキングになる自然豊かな墓地だった。一番高い場所にある展望台を目指して家族で何度か訪れ、それから一人で墓地を案内するツアーにも参加した。 心に残るツアーだった。「死者と生きている人が語らう公共の場を作る」というのが、墓地を設計した園芸師の意図

      • デジタル・クローンを前に考える

        2020年9月から半年間、科学技術振興機構の助成を受けて、『技術死生学プロジェクト』と名付けた超領域の研究プロジェクトを行いました。 科学技術と、私たちの生き死には、これまでどのように関わってきたのか、そしてこれから関わっていくのか、ということについて、人文系の研究者や芸術家も含めた多様な専門を持つメンバーと考えることを目指すプロジェクトでした。私自身は、科学技術と人の身体の関係性に関心を持つ、人文系の研究者です。人の身体と関わる科学技術には、「この社会のなかで人の身体はどの