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成瀬は信じた道をいく 宮島未奈

膳所ぜぜから世界へ」
あさぼらけ☆おはかれ〜!
瀬をはやみ〜
成信?

そんなこんなで
早速の、続編読了でありました。
「200歳まで生きる」·「大津にデパートを建てる」を大きな目標に、滋賀県大津市で奮闘している、成瀬あかりのお話です。
因みに成瀬の目標は、大小様々あるみたいです。

成瀬は信じた道をいく

今作は、5編と前作から1編減ではありましたが、何れも珠玉の物語でありました。
成瀬あかりと愉快な仲間達?のお話であります。

ときめきっ子タイム

[33頁]

ときめき坂は実在するのですが、実名が多く登場する作品ですけれど、小中学校名は架空の名称だったりしますね。
実はときめき坂は、少しだけ(直ぐに逸れてしまいました)歩いた事もありました。
前作のトリを飾った『ときめき江州音頭ごうしゅうおんど』の、続きと言うのか後日譚であります。
ときめき小学校4年生の北川みらいが、総合学習の発表のテーマにファン(今風に言うと推し)であるゼゼカラ(成瀬あかりと島崎みゆき)を選んで、(小学校の先輩でもある)成瀬の伝説に触れつつ成瀬に密着取材をすると言うお話です。
小4にして、成瀬に惹かれるとは中々しっかりしている小学生だとは思います。幼馴染で相方の島崎でさえ、小学校時代に一時期は距離を置いていた程ですから、偽り無く大好きなんでしょうね。
成瀬の行動に密着して、更なる感銘を受けるみらいでしたが、島崎も実は密かに良い仕事をしていました。
島崎は、成瀬の隣に居られるだけでも凄い筈なのですが、本質的な部分もしっかり正しく捉えられていますし、だからこそ隣に居られるのでしょうね。
因みに島崎は、大津高校に通っている様です。(ときめき小に隣接)

成瀬慶彦よしひこ憂鬱ゆううつ

[36頁]

言う迄も無く、成瀬父のお話です。
まさか、ディープインパクトの菊花賞(2005年)の話が出て来るとは思いませんでしたが、あかりがディープインパクトなら、慶彦は大種牡馬のサンデーサイレンスになる訳で、果たしてその例えでいいのですか?
因みに私も、その菊花賞は新宿アルタのビジョンで視ていまして、確かに飛んでいましたよ。
何だかんだで、この父にしてこの娘ありと言うのも、随所随所で感じられていましたし、正しいかどうかは別にして、客観的に物事を捉えて瞬時に判断出来るところは、似ていますよね。
本心を、明かさ無い(明かせ無い)ところとかも?
あかりの、京大受験から合格発表迄のお話で、成瀬家の内情やら新たな人脈等も綴られています。
其れ等も面白かったですが、表には殆ど出さない慶彦の、娘への溺愛っぷりが良かったです。

やめたいクレーマー

[30頁]

呉間 言実 (くれま ことみ)。
何ともベタなとは思いましたが、自己言及(ツッコミ)がありましたので、多分セーフです。
フレンドマート(平和堂)で、毎日お客様の声を響かせている、クレーマーでありますが、店の為であると思う一方で、やめたいと思っている様です。
但し、名前を始め素性を明かしていますから、モンスタークレーマーとは一線を画している様にも思えます。
別の意味で、モンスターですけどね。
言実の義父が、また輪を掛けてのクレーマーでありながら、その息子である夫の祐生ゆうせいはクレーマーでは無い上に、言実の体質を知りながら結婚したと言う傑物だったりします。
この作品シリーズに出て来る男性陣は、個性豊かな女性陣とは対照的に、割とマイペースと言うか、鷹揚な人物が多い感じですね。
とまぁ、スピンオフ的なものかと思ったら、ガッツリ成瀬が絡んで来ます。
大学生となって、フレンドマートでバイトを始めたからであります。
相変わらず独特の視点を持った成瀬とは、今一つ噛み合わない別の視点を持つ言実ではありましたが、とある事件の解決の糸口を提示した事で、特に言実と成瀬の仲が深まる訳でも無く(幾らか理解は進んだ)、やはり成瀬は人を選ぶのでしょう。
成瀬自身は勿論、分け隔て無い様ですが、勝手に慮って深入りはしませんから。
ラストが、これまた秀逸でお洒落でした。

コンビーフはうまい

[42頁]

個人的には、次の作品と甲乙付け難いところはありますが、今作の中で1番好きで面白い物語です。
時は少し戻って、3月(成瀬の大学合格発表前)のお話で、びわ湖大津観光大使(実在)選考会から始まります。

祖母・母に続き、三世代目の観光大使になるべくして育てられた、篠原かれん視点で綴られて行きます。
容姿端麗で、家柄も申し分無さそうでありながら、幼少の頃より観光大使エリート教育をされて来た時点で、かなり意味不明ではありますが、篠原もそれを当たり前に受け入れていた辺り、成瀬に匹敵する位には興味深い人物でありました。
但し、大津愛に関しては、成瀬には引けを取らない感じで、当初は水と油の様にも見えましたが、良い意味でのライバル心もあって、悪い関係性では無かったです。
要は、成瀬に対する慣れと、順応性の高さがあるかどうかなんでしょう。
2人の程好い関係性であるとか、篠原兄の優しさとか、良い雰囲気の物語ではあるのですが、私が1番面白く感じたのは、ですます調で話せるかの件でした。
単に、ですます調の台詞が一言書いてあるだけですが、滅茶苦茶違和感の塊で笑ってしまいました。
呉間言実のお話でも、フレンドマートのバイトとして、敬語が出て来ましたが特に何も感じなかったのですが、明確な仕事中だったからですかね。
成瀬の盟友が、また1人増えたのかも知れません。
ところで、"コンビーフはうまい"とは何番?

探さないでください

[46頁]

オールスターキャストでしたね。
成瀬の幼馴染の親友で相方でもある、島崎みゆきが満を持しての登場でした。
大晦日、ときめき地区にサプライズで帰って来た島崎ではありましたが、成瀬は軽くそれを凌駕する行動で、島崎達を翻弄するのでした。
成瀬が、大学入学で持ったスマホと謎の書き置きを残して、朝早くからの外出が発端ですが、成瀬父が謎の行動力を発揮して、手掛かりも無いのに捜索に出掛ける事となり、かなり壮大なお話になってしまいました。
いや謎でも何でも無く、単に娘を溺愛する父親の姿ですが、成瀬母(美貴子)は特にツッコミを入れる事も無く、送り出す姿も何だか面白く感じてしまいました。
島崎と成瀬父は、当てもなく外に出たものの既に手詰まり感満載でしたが、成瀬の弟子に昇格した北川みらい(小5)に出会い、更に観光大使の篠崎かれんとのコンタクトに成功して、2人が捜索班に加わる事になりました。
途中で会った、呉間夫妻にも協力を仰ぎました。
夫の祐生は、相変わらず飄々とした感じだったのは良いとして、妻の言実の強火の塩対応が気になりました。
ぬっきー(大貫かえで)も、そんな感じの変貌を遂げていましたが、そう言えば東大には合格したのでしょうか。
成瀬の場合は、全く相手にしない、理解が深まるのに比例した塩対応(キツめ)、特に問題無し、の概ね3パターンの人間関係が形成されている様です。
ひょんな事から、成瀬の目的が判明しまして、またしても成瀬父の謎の行動力から、車に乗って島崎北川篠原と共に先回りする事になるのでした。
書き置きの謎は判明していませんでしたが、成瀬父なりに島崎達を巻き込んでしまったお礼の様なものかも知れませんし、単なるそれを口実にした娘への溺愛の表れなのかも知れません。
結局ギリギリのところで、成瀬に追い付く事は出来なかったのですが、そこからが更なる壮大な展開となるのでした。
このちょっとした騒動で、島崎は自分自身の気持ちと向き合う事が出来た様ですし、着実に成瀬の世界が拡がっているのを実感したのかも知れません。
その世界に、両親も島崎も北川も篠原も、関わりある皆がこれからも存在し続ける事は、当たり前となっているのでしょう。

【雑感】

今更の話ですが、この作品は未来のお話なのですね。
2020年(中2)、21年(中3)、22年(高1)、23年(高2)、24年(高3)、25年(大1)、と言ったところで、刊行ベースで前作"成天"は最後の1編だけですが、今作"成信"では全編そうですね。
まあ、来年が楽しみです。(何が?)
今作の各編総てに於いて、パワーアップした成瀬が躍動していて、面白かったです。
テンポの良い細かい軽いツッコミ(心の声)も、何ともポイントが高かったと思いました。
成瀬が大学生になって、理解を出来たり慣れたり出来る人達が増えた様で、成瀬自身が大きく変わった訳では無さそうですが、やっと周辺環境が成瀬に追い付いて来たのかも知れません。
書き置きの一件で、成瀬の精神年齢小学生疑惑が無い訳でも無いですが、地頭が良くてどんな努力も厭わない成瀬でも、興味の埒外ではからきしなんでしょう。
勿論、必要とあらば興味が無くとも知識として、自分のものにしているのでしょうが、件の書き置きは普通に無いシチュエーションではありましたけども、まぁ調べたりしないところも成瀬なんでしょう。
島崎も、相方の地位は盤石だと思っていたら、近しい理解者が一気に2人となっていて、嫉妬する辺り微笑ましくもありましたが、本人が思っている以上には、成瀬の中での島崎の存在は大きいものである筈です。
何れにしても、成瀬の壮大な物語は始まったばかりですし、コミカルでもあり良い人が多い世界で、ニコニコしながら読み進める事が出来ました。

(了)

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